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「汗かいた後のポカリって何でこんなに美味いんだろうな」
「僕もポカリは好きだけどさ。でも」
「冷たいポカリが火照った身体に染み渡って、ほんと極楽浄土って感じするよな。甘くて美味いし」
「正吾は甘党だもんな。でも」
「ポカリに合う最強のつまみってなんだろ。柿ピー? 幸一は何だと思う?」
「でも部活中だよ?」
校舎から伸びる影で息をついてポカリを煽る彼に僕は言う。
「おい成田! 早くスタートにつけ!」とグラウンドから強面を引き攣らせた監督の怒鳴り声が聞こえた。右手に持つピストルがその迫力を助長させている。
「ほら、怒ってんじゃん。早く行かないと」
「おーこわ」
それだけ言って、正吾はもう一口ポカリを飲む。
「あんまり怒らせないでよ。機嫌悪いと大変なんだから」
「へーきへーき。いい記録にはいい休息が必要なんだぜ」
それに、と彼はニヤリと笑った。
砂を纏った温い風が吹いて、彼の前髪を揺らす。空になったコップをマネージャーに手渡して、彼は乾いた日向へ踏み出した。
「どうせ記録伸ばせば、すぐ機嫌直るんだからさ」
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