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「陸上って何が面白いの? 走るだけだろ?」
高校に入学したばかりの頃、既に陸上を始めていた正吾に僕は訊いた。
当時、部活を決めかねていた僕はあくまで参考にしたいだけだったが、今にして思えばかなり失礼な質問だ。
しかし彼は怒りもせず、いつものように気の抜けた返事をした。
「それなー」
「それな、って」
更衣室で体操服に着替えながら僕は眉を寄せる。
「俺にもよく分かんねえんだよな」
「面白くないのか?」
「あーちがうちがう。陸上の面白さって、言葉にしにくいんだよ」
「そんなもんか」
これはバレーボール部で決まりかな、と僕の心は固まりかけていた。当時読んでいたバレー漫画にドはまりしていたからだ。
そんな僕の心中をよそに、のんびりと長袖ジャージに腕を通す正吾は「そうだ」と言った。
「次の体育始まる前にさ、一本走らねえ?」
走れば分かるからさ、と彼が言うので。
僕は迂闊にも「いいよ」と頷いてしまった。
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