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「気分はどうだい?」
「あーそうだな。まあ嬉しいとか最高とか色々あるんだけどさ」
「けど?」
「コンビニで自分の顔見るの、めちゃくちゃ気まずい」
住めば都、と言うのか、地獄の練習にもなんとか慣れ始めてきた頃。
部室でクリームパンを頬張っていた正吾は眉を寄せた。
埃だらけの狭い部室のロッカーに『月刊陸上NEWS』と書かれた雑誌が置かれている。
その表紙には『高校陸上界に突如現れた神速』という派手な文字と共に、メダルを首からぶら下げた笑顔の正吾の写真が大きく載っていた。
「速い速いとは思ってたけど、まさか総体優勝とは」
「俺もさすがにそこまでいけるとは思ってなかったわ」
「じゃあ監督だけだな。さっき職員室で『あいつならやると思ってた』って言ってたよ」
「ほんと調子いいんだよな」
正吾はそう言って笑った。
「でもすごいよな、ほんと。僕もインタビューとかされてみたい」
「そこかよ」
「成田選手、速く走る秘訣はなんですか?」
「そんなのあったら苦労しねえだろ」
彼は一瞬笑いかけて、「あ」と表情を戻した。
「あえて言えば『強者の常識を持て』ってのはある」
「え、何それ」
言葉の意味がわからず訊き返す僕に、彼は答えた。
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