燃える男

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 2020年2月ごろから世界にパンデミックが起こり、各イベントが次々自粛されていく中。とうとうオリンピック延期のニュースが流れた。中止、ではないがこの分では2021年も無理ではないかと思う。  男はさすがに落ち込んだ様子で店に来た。見るからにしょんぼりしている。7年間、努力を惜しまなかったのだから。オリンピックではないがいろいろな競技の一般参加で金メダルと賞状がてんこ盛りになるまで頑張った。 「俺の生きがい……」 「仕方ないでしょうこればっかりは」 「うん」 「他の生きがい見つけてください」 「例えば?」  例えば、確かに何だろうか。男の炎は勢いもすさまじいがおそらく温度も高い。食べ物は炭になりついでに結構な眩しさだ。炎は赤ではなくオレンジと白の間くらいの色に見える。初めて見た時は普通に炎だったが、男が体を鍛えれば鍛えるほどどんどん高温になっていったように思える。 「その色の温度ってたぶん相当高いですよね。ゴミ処理場の焼却炉行ってゴミ燃やせばいいんじゃないですか、高温はダイオキシン発生しないらしいですよ。あとは炎が持続すれば製鉄所とかガラス工芸品とか」 「そうなのか」  男は考えたこともなかったのか、目を白黒させている。火事にならないよう、森林火災など起こさないよう気を付けてきた人生だったのだ。燃やすのが仕事という発想はなかったのかもしれない。少し何か考えると、よし、と立ち上がる。 「ちょっと行ってくる!」  言うなり店を飛び出していった。有言実行、結果を出すためなら努力を惜しまない男。本当に実行するんだろうな、と思う。残っている売れなさそうな服の在庫を、10円セールしなければなと思った。たぶん、男はしばらく店に来ないと思う。  その後。巣ごもりとテイクアウト需要が増えゴミが大量に増え、ゴミ処理場が悲鳴を上げ始めた頃。一人の男によってその問題は解決することになる。全国のゴミ処理場から引っ張りだことなり日本全国行脚をすることとなった。移動はガソリンを使う車やバイクは使えないので常に自転車。 「酒井!全国から緊急要請来て俺が追い付かない!ゴミ多すぎ!」 「リサイクルすすめるしかないでしょう」 男はゴミが多いこと自体が問題だと環境問題を訴え、リサイクルを推奨するよう燃えながら走り回る姿がニュースをにぎわせた。 「酒井!お年寄りとか主婦から分別めんどい、やってられね、回収業者からマナー守らんゴミの捨て方する奴らが多すぎるってなんか俺にクレームのDMが来る!」 「分別しやすい目印つけたらいいんじゃないですか、お年寄りにも見えるようにでかく。あと年寄りと主婦は子供のいう事はいやいやでもプライドの手前嫌って言えないから子供巻き込めば率先してやりますよ」  分別が面倒なら分別しやすい商品パッケージを、ということでゴミ種類別にゆるキャラのようなキャラクターを提案し著作権をあえて持たなかったことで企業も積極的に採用した。そのキャラごとにごみを捨てるようSNSで発信、地域のゴミ拾いも小学校主体で始め、一人暮らしのお年寄りなども子供が訪ねて一緒にゴミ分別イベントをするという催しも開催した。お年寄りの孤独死を防ぎ、希薄な地域の横繋がりを促す事となる。  ついでに日本全国のゴミ出しのチラシや収集場の看板にもキャラを積極的に表示するように提案し、地域ごとで違うゴミ分別ルールを大方統一した。 「酒井!ゴミ処理場から助けてってメールきた!リサイクル処理する工場自体が足りない!資源が溢れてる!」 「こればっかりは金が必要なんで、まあ今の貴方ならクラウドファンディング立ち上げれば知名度でなんとかなるでしょ」  古いゴミ処理場をリサイクルしやすい設備投資ができるようクラウドファンディングを立ち上げた。1日で500万達成し、あれよあれよと金額は膨れ、各地の主要処理場に限定されてしまったが資金源調達に奮闘し、順次対応が進んだ。  環境問題から始まり、常に自転車で移動するので自転車業界からイメージキャラに選ばれ、「僕が溶かしました」というコンセプトで鉄やガラスの加工品を告知しまくり伝統文化に注目が集まり、日本の工芸品を海外に輸出を促し、決して燃え広がらず鎮火までさせて軽く丈夫な新マイクロカーボンファイバーの開発に貢献し、それが船の脱出用折り畳み式ボートや救命胴衣など命を守る服、さらには宇宙ステーションの内装や宇宙服などにも採用され、国民栄誉賞とノーベル平和賞を取るのはもっと先の話になる。 END
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