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「ギエー!」
「ご飯食べたいって」
「鳴き方でわかるんか」
「全然」
「馬鹿野郎」
自己主張が激しいオウムの檻に餌を入れようとする壮也の腕をガシっとつかんだ。
「何? 折らないでよ?」
「檻にエサ入れたらあの鳥が戻って来るだろ」
「うん、それはそうだね。折らないでよ?」
「籠の掃除が先だろうがどう考えても。何で先に餌入れるんだ、その間お前何してるんだ」
「お腹空いてるかと思って食べ終わるの待ってる。ねえ、いい加減折らないって言ってよ」
「そこは気遣いじゃなく効率重視しろ。はい、以外の返事だったら折る」
「はーい……」
壮也の快い返事を聞き届けてから檻の掃除をして餌を入れた。オウムは檻に戻り大人しく餌を食べるので、その隙に扉のロックをかける。他にもフクロウが4羽いてこいつらはさっき買った肉を与える。全員好みが違うらしい。しかも落ちている肉は食わないのでくちばしまで肉を運んでやらないといけない、めんどくせえ。
「毛むくじゃらどもの掃除とかは大方終わったな」
「毛むくじゃらって……」
「じゃあ次は毛がない奴らだ」
「男はその言葉に心臓痛くなるからやめない?」
「俺は痛くない。何故ならハゲは遺伝だ、俺のじいちゃんも親父もふっさふさだから心配ない」
「僕のお父さん20代後半からキテたらしいから嫌なんだよ」
そんなアホ会話をしながら爬虫類エリアへと足を踏み込む。いるのはカメレオン、トカゲ……でけえな、トカゲ。あと小さい蛇とやたらでかい蛇。
「でかすぎねえかこの蛇」
「ボールパイソン。小さいのはコーンスネーク。かわいいでしょ」
「まあ、顔は愛嬌あるな。譲渡会じゃねえよなこいつら」
「この子たちはペットショップでお勧めされて買った」
ペットショップにもカモにされてんじゃねえか。
「何食うの?」
「冷凍マウス」
「冷凍じゃねえのがさっきいたな」
「だめだよ、ハムちゃん一回本当に食べられそうになってそれ以来触られるの怖がるようになったんだから」
「ネズミのトラウマお前のせいじゃねえか」
「隣に檻置いたのがやっぱり駄目だったね」
何でネズミと蛇の檻を近くに置いたんだこいつは。それで今は対角線に置いてるのか。壮也は冷凍庫をガサガサ漁り冷凍マウスを取り出すとついでにアイスも取り出す。
「あ、食べる?」
「いるわけねえだろ」
「ネズミじゃなくてアイスだよ?」
「言われるまでもなくわかってるし本気で俺にネズミすすめてきたんだなって思ったら今頃蹴り殺してる。アイスいらん」
「ちゃんと包装されてるよ」
「一緒に入れてると言う事実が生理的に嫌なんだよ」
「寝ぼけてると間違えるんだよね。一回冷凍ネズミかじったことあってさすがに叫んだよ」
「もう冷凍庫はネズミ専用にしろや。アイスはコンビニで買ってこい」
「食べたいときに食べたいじゃん」
「外出て30秒の距離だろうが」
ネズミは冷凍のままではあげられないのでどうするのかと思えばレンジの解凍機能便利だよ、と言いながら本当にレンジを使い始めた。こいつの家でレンチンするのはやめようと心に誓った。
解凍したネズミを蛇に与える。穏やかそうに見えてネズミ入れた瞬間に巻き付きながら飲み込む姿はやっぱ蛇なんだなって思う。
カメレオンやトカゲなどはゴキブリやコオロギが餌ということでそれを増殖させている水槽を見せてもらったが、さすがにエグイので俺はやらなかった。ゴキブリ苦手なの、女の子みたいで可愛いなあという壮也に水槽の中に顏を押し込んでやろうかと思ったがやめた。多少のゴキブリは平気だがそれが動く蓮コラみてーな光景広がったら誰だって気持ち悪いだろうがよ。
すべての餌やり、掃除が終わって気づけば2時間たっていた。これを普段一人でやるならその倍かかるしやたら効率悪いやり方してるのでもっとか。そりゃ寝る時間ねえな。
「お前の餌は何食ってんだ」
「餌って」
「悪い、素で間違えた。メシ」
「えーっと、アイスとかポッキーとか」
「相変わらず甘いのが好きなんだな。野菜あんだけ買ってるんだから野菜食えよ」
「草はちょっと」
「野菜を草って呼ぶんじゃねえ、吊るすぞ」
「あ、そっか克己のおじいちゃん農家だった。お野菜ね」
「結論から言うぞ。ペット減らせ、適した数まで」
「そんな」
まずはちゃんとした団体でのペット譲渡を申込してみる案を出した。壮也は渋ったが、「お前が面倒見切れてないのは明らかだろ。動物たちが可哀そうだ」と言うとしょんぼりしつつ、やっぱりそうだよねと納得した。心のどこかではわかっていたのだ、可哀そうだからと引き取っても逆に可哀そうなことになっていると。
「お前が引き取ってるのはぬいぐるみじゃない、命だ。こいつらは予想以上にでかくなるし長生きもする。犬猫なんかは年取って来ると人間と同じように介護も必要でぼけてくると夜鳴きもする、糞尿を漏らすようになる、24時間つきっきりになる必要がある。お前の生活を100%こいつらに捧げない限り可哀そうなのは同じだ。できるか? そんなこと」
「……できない。働かないと生活できないし……」
「将来結婚して子供も生まれて、もしかしたら引っ越すかもしれない。お前のライフスタイルは一生のうちで何度も変わる。奥さん動物嫌いかもしれないし子供はアレルギーもって生まれるかもしれない、転職するかもしれない。その中でも変わらずに最後まで世話を自分でできると断言できないなら、今すぐペット飼うのやめろ。お前もペットも関わった奴も全員不幸になるぞ」
ちょっと涙目になっているが、正論は言っておかないとな。その場の気持ちだけでどうにかなることもあるが、ペットとはどうにもならないことの方が多いのだ。世に放てば野生化して増殖し、環境問題へと発展する。
「本当に世話できるやつだけ選べ。優劣じゃないし愛情が傾いてるわけでもない、悪い事じゃないから罪悪感は置いとけ。お前の身の丈にあった奴を、その最後を看取れる奴を、だぞ」
「克己……」
「よしブチ殺す」
胸ぐらをつかむと不思議そうな顔をしていた壮也がやっと気づいたらしく顔色を白くした。
「ち、違うよ!今のはペットとして呼んだんじゃなくて!感動してつぶやいただけですぅぅぅうう!」
「ならいい」
ぱっと手を離し、壮也に時間を与える。酷な事を言っているのはわかっているからだ。無理しながら世話をしていても、それでも一匹一匹に愛情を注いでいたのもまた事実なのだ。思い出もたくさんあるだろう。見た感じちゃんと動物たちはこいつになついているようだ。
じっくり1時間以上考え、そしてようやく決心したようだ。
「やっぱり仕事してる時間が長いから、つきっきりになる子は難しいかもしれない。僕の生活の中で無理なく世話できて、注射とか避妊とかとにかく出費が重なることもなくて、もし出張があっても数日間なら餌を多めにいれておけばなんとか生きられる、他の人に世話を頼まなくても大丈夫。そんな子は」
手にしたのは。
「やっぱハムスターか」
「やっぱりこの子たちになっちゃうんだよね。ごめん、みんな」
本当に涙を流しながら、犬猫たちを撫でて鳥たちを覗き込み、ヘビやトカゲ、げっ歯類たちを愛おしそうに眺めてゴキブリとコオロギも覗き込む。
「おい、そこは餌だろ」
「いや、一応愛情もって接してたよ」
いやまあ、畜産農家だって愛情もって牛や豚を育てて出荷するわけだから似たようなもんなのか? あまり理解できない思考だ。
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