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俺はときどき、不思議な夢を見る。
森の中にある小屋の夢だった。
その夢には決まって俺1人が登場した。
その夢で、俺は森の中を歩いている。
暗い森ではない。明るく、軽量級な感じが漂う森。俺はそこを気楽に歩いている。
すると、行く手に小さな家があらわれる。
煙突がついていて、小さなポストがある。窓にはギンガムチェックのカーテンがかかっている。要するに、なかなかフレンドリーな外観だ。
俺はドアをノックして『こんにちは』と言う。
だが返事はない。
もう一度前より少し強くノックしたら、ドアが勝手に開いた。ちゃんと閉まっていなかったようだ。俺は家の中へ入る。『こんにちは、あの、誰かいないんですか』と訊ねながら。
その小屋の中には一部屋しかない。とてもシンプルな作り。小さな台所があり、ベッドがあり、食堂がある。真ん中に薪ストーブがあり、テーブルには4人分の料理がきれいに並べられている。皿からは白い湯気が立っている。ところがうちの中には誰もいない。食事の用意ができ、さぁ皆んなでいただこうというときに、何か異様なことが起こって、たとえば怪物みたいなものがひょいと現れて、みんながあわてて外へ逃げ出していったみたいな感じだ。でも椅子は乱れていない。全ては平穏で、不思議なほどに日常的だ。ただ、人がいないだけ。
テーブルの上には、どんな料理があったろう?
……いや、思い出せない。
そういえばどんな料理だったんだろう。
いや、まぁ、いい。
料理の内容はそこでは問題ではない。
それがまだ熱く、出来立てであったということが問題なのだ。
何はともあれ、俺は椅子の一つに腰を下ろして、そこに住む家族が戻って来るのを待っている。その時の俺には、彼らの帰りを待つ必要があったらしい。どんな必要かは分からない。なにしろ夢だ。全ての事情がきちんと説明されているわけではない。
たぶん森の抜け方を教えて欲しいとか、何かを手に入れなくてはならなかったとか、何かそういうことだろう。それでとにかく、俺はその人たちの帰りをじっと待っている。しかしどれだけ待っても、誰も帰ってこない。食事は湯気を立て続けている。それを見ていると、俺はとても腹が減ってくる。しかしいくら腹が減ったからといって、その家の人がいないのに、勝手にテーブルの上の料理に手をつけるわけにはいかないのだ。
たぶん、そういうことになっている。
夢の中のことだから、その秩序には俺にも自信がもてないけれど。
でもとにかく、そうこうするうちに日が暮れてくる。小屋の中も薄暗くなってくる。周りの森はどんどん深くなっていく。小屋の明かりを点けたいけれど、点け方が分からない。俺はだんだん不安になってくる。そしてあることにふと気がつく。どういうわけか、料理から立ち上る湯気の量が全然減っていないということに。
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