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何時間も経っているのに、料理はみんなほかほかのままだ。それもどうも変だと俺は思い始める。おかしい。不自然だ。何かが間違っている。
そこで夢は終わる。
そのあとに何が待っているかは分からない。
でもきっと、おそらく何かが起こるのだ。
日が暮れて、帰り道も分からなくて、そのわけの分からない小屋の中に俺は1人ぼっちでいる。
何かが起ころうとしている。それはあまり好ましいことではないような気もする。でもいつもそこで夢は終わる。
そして何度も何度も、その同じ夢を繰り返し見る。
その夢は何かを示唆しているのかもしれない、俺は時々、そう考えた。
『じゃあたとえばどんなことを?』
内なる誰かがそう訊いた。
俺は彼の方に意識の中で意識を向けた。
内なる彼には顔がなかった。というか、顔の辺りはぼやけてよく見えなかった。
内なる俺は答えに窮した。
…………やめよう、と俺は彼に言った。
そんなわけのわからない夢が示唆することなど、俺は思い浮かべられなかった。
代わりに、と彼は俺に質問をした。
『この夢の最も恐ろしい部分がどういうところか分かるか?』
分からない。聞きたい。
俺がそういうと、彼は得意げに息を吐いた。
とても長い、夏の夜風のように薄気味悪く温い息だった。
『それは、お前自身が怪物かもしれないということさ』
あるとき、俺は内なる彼からそう言われた。
そういえばと、俺はその可能性に思い当たった。俺が歩いて近づいてきたからこそ、それを目にした人々は慌てて食事を中断し、家から逃げ出して行ったのではないか。そして俺がそこにいる限り、その人たちは戻ってくることができないんじゃないか。
しかしそれにも関わらずら俺は小屋の中で彼らの帰りをじっと待ち続けていなくてはならない。そう考えるととても怖い。救いってものが、まるでない。
『それとも』
と彼は言った。
『そこはあるいは君自身の家で、君はただ逃げ出した自分自身を待っているのかもしれない』
俺は返事をしなかった。
内なる彼は、しばらくすると消えた。
逃げ出したのは君自身かもしれない。
彼はそう言った。
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