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「いや、男子は運動部に入っとく方が無難だぜ?」
「……そうか?」
「そりゃそうだろ。男子の中では運動部に入ってる奴が圧倒的に多数派だ。波風立たねえ、目立たねえ、って意味なら、多数派に属するのが1番だろ」
「俺にまたスポーツをやれと?」
「まぁ、そういう話だな」
「スポーツなんて、俺に何が出来るんだよ」
「そりゃ決まってんだろ」
「サッカーじゃないだろうな」
「サッカーしかないだろうが」
「それじゃお前と一緒になるじゃないか」
俺はもうお前と組みたくないの。
しっしっ、と手で追い払う真似をすると「ちぇっ」と言い残して和弥は部活動体験へ向かって行った。
いや、地元でこれほど悪名の知れた人間とタッグを組むなど、正気の行いではない。
俺がいくら善人といっても、悪名高い奴と一緒にいれば同様に悪人と判断されても文句は言えない。なぜなら、知らない人に対してそういう評価の下し方をするのは極めてまっとうなことだからだ。
それならば、やばそうな奴とは極力関わらない。
関わってしまったらそんな関係は早めに断つ。
少なくとも人前で公に交わるようなことはしない。
それが、真っ当な神経を持ち合わせた人間のすることだ。
グラウンドに集合した20人ほどの集団に、和弥が小走りで加わっていくのが、教室の窓から見えた。
活動意欲の大量消費社会に敬礼。
俺は和弥に視線をやって、教室を出た。
教室には西陽が差してそれなりに暖かかったけれど、廊下は仄暗い。4月のわりには肌寒かった。
一年生の教室が並ぶ廊下の電気は全て消えていて、微かに常夜灯だけが光を放っている。廊下の端にゴミだけがぽつんと落ちている。
まあそれも仕方あるまい。
今日は初めての部活動体験日。みんな早めに教室を出ているに違いない。同級生や先輩、顧問の心象を考えれば、誰だって初日から遅刻なんてしたくないだろう。
まあもっとも、同僚も顧問もいない部活に入ろうとする俺には、まるで関わりのないことだ。
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