恋と愛の選択肢

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『俺には絶望しかなかった。一人で咎を受け続け戦い続けなければいけない運命に……。でも、もう一人ではない。お前と共に、生きると決めた。神など信じていないからな、お前に誓おう。生涯愛し続ける、そして必ず守ってみせる。だから、そばにいてくれ』 Fin 「うおおおおおおお~……アーク、お前って奴は、お前って奴はああああああ!」  ゲームの前で大号泣だ。紆余曲折あったが、年末のカウントダウン直前にようやくトゥルーエンドを迎えることができた。他の攻略キャラ5人と力を合わせ敵を倒し、アークの咎を半分ヒロインが請け負う事で彼に生きる意味を見出させ、争いを避けるため二人で旅に出る。悲しい笑顔はもうない、スチルは幸せそうに微笑むアークとヒロインが手を取り合ってキスをする寸前だ。  辛い過去を持ち一人で生きると決めた頑固野郎の説得は何度も失敗しかけたが、まさか初対面の時の選択肢で「一緒に狩りにいこう!」を選ぶのが最終ルート確定コースだったとはなんという初見殺し。  ここからドハマリした六花はとにかくアークのグッズを集め、絵をダウンロードしまくった。会社ではクールなお局である事には変わりないが、スマホはアーク関連で容量パンパンである。  休み明け、田中が新幹線代ときりたんぽを持ってお礼を言ってきた。病院で措置を受け実家で思い切り母に泣きつき、気分転換できたのでこれからもご指導お願いしますとのことだった。 「アイツはなんか、全身骨折で入院したらしいです。人に轢かれたとか化け物がどうだとか、言ってることが支離滅裂だったので調べたらどうもクスリやってたらしくて。症状が回復したら警察の取り調べらしいです。どうでもいいですけど」 どこかふっきれた様子の田中に、そっか、とお土産を受け取った。 「あの、すみません。今月の経常利益算出締め切りいつでしたっけ……」 「えーっと待ってね、確か20日だったと思うけど」 ポケットからスマホを取り出そうとしたがつるっとすべって落ちる。 「あ!」 カツンと音を立てて落ちたが割れてはいない。割れてないが、衝撃で電源が入り待ち受けにでかくアークの笑顔が映し出される。やべえやっちまった、明日からオタクババアという認識になる、と内心暴風雨のような心境だ。 「あれ? 大月さんってこういうの好きなんですか?」 「え!? いやあの、まあ、たまたま!」 何で言い訳してるんだ自分、とわたわたしていると田中は子供のように目をきらきらさせた。 「私もスマホゲームでアイ活やってますよ、知ってます? アイ活」 「アイ活って、CMやってるあのイケメンアイドル育てるやつ?」 「そうです。面白いですよ。えへへ、なんか不思議な感じです。2年経って大月さんとこういう話ができるとは思いませんでした。間宮ちゃんもこれやってますし、おすすめです」  19歳女子、間宮とよく話し込んでると思っていたがゲームの話だったのかと納得いった。なんでもアイ活は舞台もあって2.5次元俳優にもハマっており、間宮とは一緒にその舞台に行っているそうだ。  その後田中、間宮とゲームの話でなんとなく距離が縮んだ。仕事は仕事として指導しながらメリハリをつけているが、ラインを交換してサクリファイスとアイ活の話で盛り上がった。 「なんか最近3人で楽しそうだけど、なんかあったの?」 午後3人であの俳優が、とかこのイベントが、と話していると会話にチャラ男の椎名が入って来るが、話しかけられたのは田中だ。年が近い事もあって椎名と田中はよく話をする。 「男性には関係ありません」 「えー、なんだよそれ。さては男の話か」 「そうですよ」 田中が肯定すると椎名は「えっ」とびっくりした様子で六花を見る。ばっちり目が合い、殺気立ったチーターと群れから離れた子トムソンガゼルの構図となった。 「なんだ椎名、私が男の話をするのは魚が肺呼吸する並にありえないってか?」 「い、いいえ……」 「雑談する余裕があるんなら、当然月末締めは終わってるんだろうな。私は一昨日終わった」 「えーっと、これから終わる予定です……」 「終わったかどうかの事実確認をしてるのに希望的観測を入れて答えるんじゃない。報連相の徹底は入社日に私が教えた!」 「15時に終わらせます!」  ダッシュで自分の席に戻るとパソコンのキーボードを凄い勢いで打ち始める。その様子を田中と間宮がくすくす笑いながら見ていた。まったく、と六花も席に戻る。 それを見計らったようにポコペン、と田中のメッセンジャーに椎名からメッセージが来る。 『なあ、大月さんって彼氏いたの?』 『今はいないよ、好きな人はいるみたいだけど』 現実世界の人間ではないが。 『え、誰。会社の人?』 『自分で聞きなよ』 『それができないから聞いてるんじゃん』  まったく、と田中はため息をつく。気になる人の前で緊張して上手く話せないとか、思春期の男子中学生か、とあきれる。入社当時からお世話になって3年経つというのに、何も進展がないとは。チャラチャラしてそうに見えて本命には一歩引くとか、乙女ゲーキャラか、と思う。 『一つはっきりしてるのは、ヘタレは嫌いだと思うから月末締め頑張って』 『死ぬ気でやる』 大月さん、今のところ貴方の選択肢は間違ってないみたいです、と田中は小さく微笑んだ。 END
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