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「元はと言えば……お嬢様のせいでしょう。晴太郎様が嫌がることをしたのですから、警戒されて当然です!」
「えー、だってあんなに泣くと思わなかったしー」
「全く……晴太郎様が可愛いのは分かりますが、程々にしないと嫌われてしまいますよ」
「わ、わかってるってー!」
須藤が優秀な使用人だと言われている理由はこれだ。主人だろうが部下だろうが、厳しく正しい指導出来るのだ。天真爛漫な香菜子と上手くやっていけてるのも、この人だからだろう。七海と違って、いくら主人が可愛くても甘やかしたりはしない。
「晴太郎様、七海も……私がいないところでお嬢様が迷惑掛けたようで、申し訳ありませんでした」
「いや、俺はもう別に……仲直りしたし!」
晴太郎も心無しか背筋がピシッと伸びている。昔、まだ晴太郎が小学生の頃、悪戯を仕掛けた時にふたりで怒られたことがあったことを思い出した。その後七海は教育について厳しく指導された。
そのまま4人で立ち話をしていると、ホームの奥の方から洋太郎がやって来た。
「おーい、香菜子、須藤……あ、晴太郎たちも来たのか!」
駆け足で来た洋太郎は、少し息を切らしている。急ぎの用だろうか。
「あっちのエレベーターから父さんと兄さんたち来たから、もうみんな揃ってるぞ」
「えー大変! 父さんはともかく、幸太郎兄さん待たせたら怖いよー!」
いつの間にか新幹線の出発時刻が迫っていたらしい。他の兄弟たちと使用人たちはもう乗り口にいると、洋太郎は伝えに来てくれたようだ。
彼らの1番上の兄で中条家の第一子に当たる幸太郎は、中条ホールディングスの副社長だ。普段は温厚な人だが、その任を背負う人物なだけあって厳しい面もある。七海たち従者にはさほど厳しくないが、兄弟たちには特に厳しい。
「早く行こう、須藤!」
「七海、早く行くぞ!」
兄が待っている、という洋太郎の言葉に背筋を震えさせた晴太郎と夏菜子は、乗り口の方へ駆け出した。
「お嬢様、走ったら危ないですよ!」
「坊ちゃん、お待ちください!」
慌てて須藤と七海もそれぞれの主人の後を追う。しかし、キャリーバッグを引き摺ったままでは全く追い付けない。荷物持ちも使用人の立派な仕事だが、急に走られてしまうと大変だ。
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