やなりの歌

2/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 幸い、その日は痛みも痒みもでなかったので早退することはなかった。赤みも午後になると徐々に引いていき、帰る頃にはもう目立たなくなっている。本音を言えばもう少し早くなくなればと思ってしまうが、そこは仕方ないだろう。 「足跡かあ」  言われてみれば確かにそう見えなくもない。だが、そんなことがありえるだろうか。小さな子どもでもいれば、寝てる間におもちゃの人形を押し付けられて跡が残った、なんて可能性もあるだろうが、あいにく私は独身だし、そのような物もない。 「まあ、もう消えたんだし、どうでもいいか」  明日も早いと言うことで、早々に床につく。今日はガーゼのことを弁明するために必要以上に喋り、疲れてしまった。 「そう言えば、あいつ変なこと言ってたっけ」  電気を消し暗くなったからか、妙なことを思い出してしまった。 『先輩の部屋、出るんじゃないですか? 鬼とか』 「そんな小さな鬼がいるかい」  にしてもなんでそんな鬼とピンポイントに指定してきたのだろうか。幽霊とか妖怪とか大雑把ならまだしも。……いや、鬼も結構大雑把か?  そんなことを考えているうちに、眠ってしまった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!