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ザク、ザク、ザク、ザク————。
誰も踏んでいないまっさらな雪に、自分の足跡をつけながら前進する。
この感覚が昔から好きだった。誰も踏み入れたことのない地。未知の世界を開拓しているかのような、なんとも言い難いワクワクに胸が躍る。体も躍る。
気づけば、歩くだけは飽き足らずに跳ねたり回ったりと、およそ社会人らしからぬ動きで雪景色を謳歌し始めていた。
私に踏みしめられた雪は、アスファルトとは違い何の抵抗もなく私の足を受け入れる。
冷たさが足の芯まで染み渡る前に、次の足を踏み出す。
そんな私の様子を、近くに置かれた二体の雪だるまがじっと見つめてくる。確か、幼い子供がいる家庭だったか。何度か子供が登下校しているところを見たことがある。
片方は木の枝でキリッとした眉毛が付けられ、もう片方は赤いリボンが付けられている。どうやらオスとメスらしい。いや、男女と言ってあげておこう。
「お嬢さん、僕と一緒に人生のかまくらに入らないかい?」
「ごめんなさい。私、二頭身の人はちょっと」
というやりとりが聞こえてきそうだった。ドンマイ、雪だるま男。
少し視線を上にやると、今度は屋根に積もった雪が見えてくる。
「おたくの娘さん、すっかりきれいになっちゃってまぁ〜やぁねぇ〜もぉ〜」
「いえいえウチなんて全然! そちらこそ息子さん、大きくなっちゃって! 去年はあんなに小さかったのにねぇ〜!」
「一年ってほんと早いわぁ〜」
と、井戸端会議ならぬ屋根端会議に華を咲かせているようだ。確かに、年に何度も雪が降るわけではない東京において、子供たちが雪を楽しみにしているように、雪の方も子供たちに会えるのを楽しみにしているのかもしれない。そうだったらいいなと、心から思う。
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