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続けて目に入ったのは、大量の雪を携えた桜の木。花が咲くにはまだまだ先だが、今日は花の代わりに雪を咲かせているようだった。
細い枝、太い枝、短い枝、長い枝。それぞれ分け隔てなく、咲かせた雪を落とすまいと踏ん張っているようだった。
「へへーん! 俺こんなに雪持ってるもんねー!」
「何言ってんだ、オイラの方がいっぱい持ってるって!」
「ぼ、僕だって……あぁっ!」
「あーあ、落っことしてやんの」
一番小ぶりな枝から、ドサドサッと音を立てて雪が落ちる。どうやら踏ん張り切れなかったらしい。わずかに残っていた雪が、涙のように滴り落ちる。
よしよし。今は存分に泣いていいよ。その涙で、他の枝より綺麗な桜を咲かせてね。
あちこちに降り積もった雪が、雪をまとった自然が、私に声を聞かせてくる。上司や取引先の怒声とも、合コンでの空っぽな馬鹿騒ぎとも違う。賑やかな静けさと、ひんやりとした暖かさを持った声。矛盾しているようで、じんわりと染み渡る自然の声は、ストレスという渦の中にいた私の心を解きほぐしていく。
その声をもっと聞きたくて、私はジャンプしながら反転し、雪に寝転がった。
髪が濡れ、身体中が一気に冷えていく。それでも、雪の中にいることが幸せだった。
嫌いなものが凍てつき、目を逸らしたいものが白銀に染められる。まさに非日常。私の求めていた世界がここにあった。
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