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しかし、今なお降り続ける雪が、私をこの銀世界の一部にしてこようとしてくる。コートの中までぐっしょりと凍えてきたので、流石に体を起こす。
雪を払いながら立ち上がり、改めて自分の歩いた跡を見る。
他の誰でもない、私だけが付けた足跡たち。きっと明日になれば溶けてなくなってしまう、ひと時の軌跡。
それが何だか、切り離された時間であることを感じさせてくれる。
昨日までと地続きの今日ではなく、明日に続いていく今日でもない。独立した、今この瞬間しかない、特別な今日。大人になって忘れてしまった、掛け替えのない今日。
子供の頃は、晴れの日も雨の日も好きだった。晴れの日には晴れの日の、雨の日には雨の日の楽しさが合ったから。それはきっと、子供のうちにしか感じられない、一日一日に対する敬意なんだと思っていた。
だけど今日、私は再び今日という一日に輝きを見出している。晴れの日は紫外線が気になり、雨の日は電車通勤にうんざりする毎日とは違う、眩い今日を楽しんでいる。
自分でも不思議だが、どこか納得もしている。雪には、人の心を輝かせる力があるに違いない。なにせこんなにも眩しい銀世界だ。心にくらい染み込んでくるだろう。
ザク、ザク、ザク、ザク————。
私は雪を踏み締める。
忘れてしまいそうだった、けれども忘れたくなかった今日を、この足に刻み込んで。
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