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翌日。案の定、雪は溶けてしまっていた。
都会の雪は硬いので、溶けても氷のように固まってしまう。それでは危ないので、固まった雪は通路の端へと寄せられていた。
そこに、昨日までの賑やかに静かな輝きはなく、消えるのを待つだけの儚い塊に成り果てていた。
雪だるまの男女はゾンビと化し、屋根端会議をしていた雪たちは脆く崩れ落ち、雪を持ち上げていた桜の木はその雪を手放してしまっていた。
街はすっかり、明日に続く今日へと様変わりしていた。
ほんの少しの寂しさを感じつつ、私はドアの外へと踏み出す。
震えるほどの寒さとともに、パキッという音が足元から聞こえてくる。どうやら凍った水溜りを踏ん付けたようだ。
滑りやすくなっている通路を、慎重に慎重に歩く。昨日の理由のない高まりなどなく、いつも通りの日常へと踏み込んでいく。
道中、日光を反射した雪が眩しく私の目を射してくる。
逃げるように目を瞑った瞬間、ほんの一瞬だけ昨日の銀世界が見えたような気がした。
しかし、目を開ければそこにあるのは灰色の街並みのみ。
いつも通り嫌な思いをして、いつも通り疲れるのだろう。
だが、私は知っている。今日とは違う昨日があったことを。
私は覚えている。一昨日から切り離された昨日があったことを。
私は信じている。またいつか、あの特別な今日に会えるのだと。
その日を待ちながら、私は今日を歩いていく。
今日という日を、たっぷりと踏み締める。
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