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神谷小春へ
19年間の生活はどうでしたか。
小春の存在は知りながら、架空の人物と思っていました。
あなたを実際に目の当たりにするまでは。
今月は2人の誕生日ということで、初めてコンタクトを取りました。
20歳。
あなたはそろそろ知るべきです。
日時:20xx.4.30 PM22:00
場所:池袋2丁目xx-x xx第3ビル地下1F motore
神谷達春
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『かみや、こはる…?』
聞いたことのない名前に、もう一度封筒の宛名を見る。
そこに書いてあるのは間違いなく、私の名なのに。
手紙の内容は、意味のわからないもの。
小春って誰なのか。架空の人物って何のことか。
そして、ご丁寧に書かれた神谷達春という送り主は誰なのか。
もちろん、私の知り合いではない。うんと考えてみても思い当たる人はひとりもいない。
気持ちが悪い。こんなもの、きみの悪い悪戯にしか思えない。
しかし、悪戯ならこの写真は一体なんだ。
私の顔をした誰かを使って、私にコンタクトを取るのは何故なのか。
そろそろ知るべき、とは一体何を。
何のために?
何、何、何、と疑問が全身をぐるぐると駆け巡っては消えてくれない。
不快感と謎ばかりが残るその手紙から、目が離せない。
『これ、今日の日付…。』
文末に指定されている日付は今日のもので、うちから電車で乗り換えなしでたどり着ける場所。
Google マップで指定された住所を開いてみると、どうやらバーのようだ。
床に落とした写真を拾い上げて、もう一度目を向ける。
今夜兄は遅くなると言っていた。バイトもなく、どうせ暇だし。
自分の中で都合の良い理由を並べて、取ろうとしている行動を正当化していく。
本当なら、こんなこと考えるべきではないと、頭では分かっているのに。
魔がさした、とでも言うのだろうか。
恐怖心と好奇心が入り混じった妙な感覚、心臓の動きは早い。
怖いから、知りたいと思ってしまった。
分からないのなら、手を伸ばそうと決めてしまった。
私だけど私じゃないその人を、どうやら無視できそうにない。
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