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夜の街。
日が落ちて輝き始めるネオンが浅く煩い。
キャッチのお兄さんやキャバクラの女の子たちが通りを陣取って、息すらもしにくい。
こういうところとは、程遠い人生を歩んできた。
あんな、高いヒールを履くような道は選ばなかった。
意識せずとも早足になるのは、雰囲気に飲まれているせいもあるのだろう。
指定された場所に近付くにつれ、夜の嫌な藍色が濃くなる。
危ないことをしている気でいた。
見ず知らずの人からの手紙にまんまと反応をして。
雑居ビルの狭い階段を下りる。
通りに面しているのに、どんどんと音が遠くなっていくのが逆に不安感を煽った。
こんなところに足を踏み入れたことはない。
普段はお酒を飲むと言ってもチェーンの居酒屋で友人たちとワイワイするのが定石で、怪しげなバーにしかも一人でなんて、まるで私じゃないみたい。
古びた木のドアには会員制と書いたプレートが取り付けられている。
勝手にドアを開いて良いのかすら分からないが、ここまで来てしまったのに後戻りなんて出来ない。しない。
ドアノブを握って力を込めると、簡単にドアは開く。
ドドドと鼓動はスピードを上げて私を責め立てる。
遅れて、カランコロンと鳴ったチャイム、薄暗い店内、タバコの匂い、聞き覚えのある静かなBGM。
映画でしか見たこと無いような空間に立ち尽くしていると、バーカウンターの中に立っている男性と目があった。
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