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「…ハル?」
メガネをかけたオールバックのバーテンダーが、酷く驚いた顔でこちらを見る。
いらっしゃいませでも、席を案内されるでもなく、目が合って、逸らせないまま。
その反応に、この人があの手紙と関わっているのはすぐ分かった。
聞きたいことはたくさんあるのに上手く言葉に出来ず、スカートを握る手に力が入るばかり。
『…?お兄さんが、カミヤさん、ですか?』
『あの、ここを待ち合わせ場所に指定されていて…。』
流れる音楽のゆったりとしたテンポがますます私を掻き立てているよう。
ただの悪戯かもしれないモノに釣られ、ここまで来たんだ。
早く、納得できる答えが欲しい。
「驚いた…。」
『写真の人は誰ですか、小春って「奥の、」
一度口を開いて溢れかえって止まらない私を、バーテンダーは落ち着いた声で制した。
はっと我に帰る。
興奮して呼吸の短い私が口を噤むと、バーテンダーは話を始めた。
「奥のドアを開けたら階段を降りて。左手のドアを入って頂戴。」
拭いていたグラスを傾けて、指し示した先にあるドア。
スタッフオンリーと書かれているから、普通の客が入るところでは無いのだろう。
こくん、と小さく唾を飲んで頷いた私は、バーテンダーの前を通り過ぎて店内奥のドアに向かう。
バーテンダーが食い入るように私の顔を見ていたことには気付いていたが、無視をした。
興味はもう、その先で待ち受けているナニカにしかない。
焦る気持ちを抑えて丁寧に階段を降りて、言われた通り左手のドアのノブに手を掛ける。
いい意味でも悪い意味でも、こんなにドキドキしているのは20年間生きてきて初めてのこと。
ゆっくりとドアを開いたつもりだったが、建て付けが悪いのだろう、ギギギと嫌な音が耳に刺さった。
そして、次に耳に入ってきたモノに視線をあげる。
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