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2.真実
***
目が覚めても昨日のことは夢ではなく、逃げるように走った帰り道で転び、擦りむいた右膝には瘡蓋が出来ていた。
「美弥、昨日の晩どこ行ってたの。遅かったろ。」
兄に尋ねられるが、私は答える術を持っていない。
私と同じ顔をしたあの男は何者なのか。
向けられた小春という名は誰のものなのか。
私って一体…
変な考えが頭によぎったのを、首を振って紛らわす。
不意に手のひらに目を落とせば、大丈夫大丈夫と小さく声に出した。
そうでもしないと、自分を保てそうにない。
もう二度と関わらずに、昨日のことは忘れて生きていけたら、とも考えたが、私の居場所は割れている。
行動を起こしてしまったのは私。知らぬ存ぜぬではもう逃げられない状況を自分で作ってしまった。
『…、』
それにあの男の姿形、言動から考えて、きっと他人ではない。
どれだけ冷静に考えても、あの男と私は無関係ではない。
母親に昨日の出来事を電話しようかとも考えたが、iPhoneを操作する指がコールボタンを押す直前で止まってしまう。
私と他人でないと言うことは、私の家族とも他人でないと言うこと。
そんな話今まで一度も聞いたことがないのは、敢えて隠しているからかもしれない。
大切な家族だから勝手な憶測で傷つけたくはないし、何より自分がどうしたいのか、何を聞きたいのかが全然定まっていない。
学生ではあるが大人だ。
話をするならば、もう少し自分のことをちゃんと知りたい。
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