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「あー……眠い……」  翌朝、京香は夜ふかしをしてしまった代償に眠い目をこすりながら境内を歩く。 「いってらっしゃい、京香ちゃん」 「未早さん……いってきまーす」  力なく笑って答えると、足音が聞こえた。足あとは、うん、見えない。 「おはよう、卯月」 「おはよ! 学校がんばれ〜」 「分かってる……あ」  京香が足を止める。卯月が振り返ると、そこには春満と彩友美がいた。 「おはようございます」 「おはようございます!」  昨日とはうってかわり、彩友美が明るい。 「おはようございます、藤崎さん。彩友美ちゃん」 「彩友美が、神社に来たいって。妻に会ったそうなんです」 「へえ……!」  ミヅハノメの神通力は本物だった。 「私のこと大好きだよって、愛してるって言ってくれたの」 「……夢なのは分かっています。骨になった彼女が、会いに来るなんてあるわけない。でも、彩友美がこんな笑顔で……久しぶりに笑ってくれた。この笑顔を引き出せるのは、妻の泉だけだ」 「……春満さんにもできると思います」 「私に?」 「彩友美ちゃんにとって大事なお父さんですから!」  それは、京香の言葉。  傍らで静かに見守っている卯月は、ふふ、とほほえむ。京香は、まるで卯月が中にいるような――かりそめの神様のように自信たっぷりだ。 「お父さん、そろそろ会社に行かないと。遅刻しちゃうんじゃない?」 「おっと、そうだな。それじゃあ、浅羽さん。また来ます」 「はい。お気をつけて」  京香に別れを言った二人は、手をつないで何やら楽しそうに話しながら歩いていく。 「……卯月」 「ん?」 「……私、かりそめの神様、続けたい。器として、卯月に、浅羽神社を頼ってくる人を救ってほしい!」 「……、死ぬまでこき使ってあげる」 「もう、そんな言い方しなくていいじゃん。って、私も学校行かなきゃ! じゃあね!」  慌てて京香は小走りで砂利道、そして石畳の道をかけていく。  じゃりじゃり、じゃりじゃり。  足音がするのに足あとは残らない、それに気づいた京香が出会ったのは、かりそめの神様となる機会をくれる本物の神様だった。 ――終わり
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