【1】僕はアイドル

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【1】僕はアイドル

 俺の名前は杉野 稔(みのり)25歳、失職寸前のアイドルだ。 俺の少年期には母性をくすぐる系の可愛いさがあり、中学生の時に街で芸能事務所にスカウトされた。 演技も教わらないうちに、トントン拍子でオーディションに受かって、十五歳で戦隊モノで俳優デビューした。 が、しかし、調子よく進んだ分だけ、現場では苦しんだ。同じ事務所のレッドやブルーが活躍する中、ミドリの俺は毎日毎日駄目出しのオンパレードで、ただただ死に物狂いでそれに応えてやってきた。 それこそ家では風呂入って、台本覚えて、寝る! 現場では、ひたすら謝り、もう一度お願いします! を連呼していた。 その戦隊モノの終了後、成長期? が来た俺は普通に成長した。身長も174cmにまではなった。けれどもそれだけでは役は来ない。それまで頑張ってきたことを事務所や監督や現場の人たちが認めていてくれて学生生活と俳優業が送れるような、つまり細々とドラマや舞台に出ていた。 そうして二年ほどしたら、また幸運が舞い込んできた。同じ事務所のレッドとブルーの二人とアイドルグループを組むことになったのだ。 準備期間は半年で、合宿所に入って、風呂入って、振り付け覚えて、歌詞覚えて、寝る! の生活を送った。 運動神経は良い方だし、体も柔らかい。バク転だけでなく、バク宙もできるところが買われたんだろう。 デビューは俺たち三人の他に年下の二人を加えて五人で、プレスト・サンクというグループ名でCDデビューとなった! 戦隊モノ出身者が三名もいることを引きずってメンバーにカラーがついた。 レッドをやっていたかっこいい系で二歳年上の赤坂大河(あかさか たいが)、ブルーの月島葵(つきしま あおい)は穏やかな顔つきの優しい系だ。(但し、本当は神経質だ) 新たに加わったのはクール系(ただ無口なだけ)の(クロ)こと、黒沢和幸(くろさわ かずゆき)と可愛い系の木本春樹(きもと はるき )は名前に「き」が多いから黄色(イエロー)だ。 俺は戦隊モノの時にミドリンジャーだったので、そのままミドリ色である。しかも衣装はみんな発色の良い生地なのに、俺だけオリーブ色といえば聞こえが良いだけの抹茶色である。もうどちらかといえば迷彩色だと思う。 俺は無意識に何かをしでかしているのか、日に日にメンバーとの距離を感じてしまってきている。 人付き合いが苦手だと思ったこともなかったのだが、ここのところ空回りしてる感がハンパない。 メンバーの中で面倒なのは、 俺様レッドと 神経質なブルー、 挨拶をしても返事しない黒に、 何かにつけライバル視してくる黄色。 つまり全員だ。 アイドルスマイル常時発動スキルを身につけて七年もの間、頑張ってきたのだが、ここのところ休んでも疲れが取れやしない。今日も今日とて、歌番組の収録にきているが、楽屋の中はなんとも居心地が悪かった。 「ほら、みんな! 新曲を提供してくださったイースト・エンドの久遠(くおん)さんが楽屋入りなさったから、挨拶行くわよ!」 マネージャーが部屋に入ってくるなり挨拶回りだ。 赤:「お?! そりゃいかねーとな」 青:「そうですね」 黒:「……」 黃:「は〜い」 俺:「はい」 そう、今日歌う新曲は二十年近くミュージックシーンを牽引しているロックバンド、イースト・エンドのリーダー朝比奈久遠(あさひな くおん)さんが作ってくれたものだ。 歪んだギターが刻む超イケてるリフがドラムと掛け合い、チョッパーベースが絡み合う。歌詞もちょっと色っぽい大人な感じがグッとくる。特に僕に与えられたソロパートは最高で、黄色の妬みに一役買っている。だけど、仕方ないだろう、久遠さんからの指定だったんだから。 レコーディングにも久遠さんは来てくださってアドバイスを頂いたりもした。一緒に来ていた中学生の息子さんは人見知りなのか部屋の角で背中を丸めて小さくなっていた。離婚された奥さんが金髪碧眼のモデルさんだったのが頷けるような、それこそ宗教画に出てきそうな天使顔だった。 肩までかかる柔らかな茶髪はウェイブがかかり柔らかな雰囲気を生んでいた。ヘーゼルの瞳はぱっちりとしてて、まつげが超長い! 鼻梁がすーっと通っていて、唇が紅くって女性アイドル顔負けの可愛さだ! そう思えばもう美少女にしか見えなくて、ちょっと照れてしまう。 でも、話をすると変声期の男の子の声でしゃべりにくそうにインターナショナル・スクールに通っているリオン、十四歳、と説明してくれた。一日のほとんどを英語で生活してるせいなのか話している内容がすごく聞き取りにくかった。 「ヤッベ、ナルンジャーだ! ミドリンジャーだ! スーパーセ***、スーパーキ***、スーパー*マラン、スーパー**イイ」 とどうやら、敵討戦隊(てきとうせんたい)ナントカ・ナルンジャーをよく見ていてくれたらしい。子供の頃のヒーローに会えて喜んでくれていたのはわかったが、手で口元隠してるし、後半まぢ意味がわかんなかった。 わかったのは、リオンくんは僕の演ってたミドリンジャーの大ファンだったってことと何にでもスーパーをつけるのがブームみたいだなってことだった。それも黄色には不快みたいで、そんなに睨みつけるなよ、と言いたかった。 その後も、ありがたいことに久遠さんのブログやメディアの取材でレコーディングの話やこの曲について度々取り上げてくださっていた。 まだ、CDは発売前だが、紹介している動画サイトでの再生数もダントツで、ヒット間違いなしと言われている。 そんなことを考えながら久遠さんの楽屋を訪れる。さすが久遠さんの楽屋だ。バンド、イースト・エンドとしては今休養中らしいが、昔の曲がCMで使われ再び火がついていて、忙しいみたいだった。花束やプレゼントが山積みで、しかもひっきりなしに挨拶に人が来る。 そんな中、俺たちはその合間に入って行った。どこでも、基本、仕切りたがりの俺様レッドが喋ってくれるし、そのフォローは神経質なブルーがするので、俺はただ、頭を下げるだけだ。 挨拶とお礼を言い終わって退室しようとした間際、久遠さんは俺の左腕をとって言った。 「今度、俺の誕生日会があるんだよ。来ないか?」 「はい! ぜひ!」 ちゃっかりと黄色が振り返って答えていた。 ***** 「ヤッベ、ナルンジャーだ! ミドリンジャーだ! スーパーセクシー💓スーパーキュート💓スーパータマラン💓スーパーカワイイ💓💓💓」 リオンくん、興奮のあまり、鼻血出そうで手で押さえてます(*´艸`*)
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