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王子様は寂しがり?
それから俺への謎のいじめ行為はなくなり代わりに義経が狙われるようになった。
いくら鈍い俺でも目の前でちょっと前まで自分に起こっていた事が義経に起これば流石に気づく。
「義経―――、俺、お前の事守るから。だから安心しろよ!」
一瞬義経はきょとんとしたが次の瞬間花が咲いたように笑った。
うっわ、うっわ、破壊力っ!
俺は義経の笑顔にあてられ後ろによろめいてしまった。
そして、守ると言った相手に腰を抱かれ転ばずに済んだのだが、俺は本当に義経を守る事ができるんだろうか?と不安になる。
だけど、守る事ができるとかできないじゃない。守るんだ。
大事な友だちに傷ついて欲しくない。だから俺が守るんだ。
そう誓ったものの実際はぶつかろうと突進してくる女子から義経を守ろうとして反対に義経に守られて、の繰り返しだった。
どれ一つとしてうまくいかない。
自分のふがいなさに落ち込んでいると義経が自宅に招待してくれた。
普通に学校帰りに友だちの家に遊びに行くって事なんだけど、義経の家はすげーお金持ちだからつい小市民的な表現になってしまった。
「うおー、お前ん家すげーな。あれなんだ?あれは?これは?」
なんて最初は興奮しきりであちこち見て回ったが、義経の部屋に入る頃には違和感を覚えていた。
「――――なぁ?誰もいねー、の?」
「――あぁ」
「いつも?」
「あぁ」
俺の質問に端的に応える義経。表情は『無』で、何を考えているのか分からない。
「執事とかメイドさんは?」
「何だいそれは。通いのお手伝いさんはいるけど、午前中に家の事やってすぐに帰ってしまうから殆ど顔を合わせる事はないよ」
俺の『執事やメイドさん』という発言がおかしかったのか少しだけ笑った。
義経の笑顔にほっとする。だけどその後の寂し気な顔に俺は―――。
「そ…そうなんだ」
『じゃあ、お前はこんな大きな家に一人で寂しくないか?』
俺が飲み込んだ質問だった。
こんな事訊いてどうする。
寂し気に揺れるお前の瞳を見て、そんな事俺は訊けない。
友人の寂しさを想い、そっとその頬に手を伸ばす。
指先が触れ、ぴくりと身体を揺らす義経。
お互いがお互いを見つめ、目を逸らせない。
気が付けば少しずつ近くなっていく義経の顔。
このままでは唇と唇が触れてしまう。息がかかるそんな距離。
――――これは、友だちがする事か?
はっと我に返り慌てて俺は身体を離した。
「きょ、今日はもうかえろっかな。じゃ、じゃあ今日は色んなもんが見れて楽しかった!明日、また明日な!」
義経の顔を見る事もできずそのまま走って家に帰った。
どきどきといつまでも煩い心臓と、耳まで真っ赤になってしまった顔と震える手と。
こんなの――――いきなり走ったりしたから、だよな?
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