第六話 司馬懿の魏掌握

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第六話 司馬懿の魏掌握

 成重山での戦いの後、蜀軍は、全軍漢中へと引き上げた。戦全体としては負け戦であり、損失も多く出ていた。今後の蜀は、数年の間、内政に力を入れざるを得ない状況であった。 そんな中、廖化は、先の戦いで羌族と蛾遮塞と子の威旻の部隊を吸収し、新たな強力な軍へと進化していた。  二四九年、この年、蜀にとっては最大の柱を失うことになった。王平が死んだのだ。 文官は、それなりに粒ぞろいではあるが、軍事を生業とする武官が人材不足の中、病没したのだ。 「王平殿、彼が居たからこそ、勝ち戦ができたのだ」 「武将だけではなく、我らの心の支えでもあった……」 廖化、姜維含め、将軍達は皆落胆した。 そんな頃、魏との国境沿いで、どよめきが起こり、漢中から関所へ姜維、張翼、廖化などが従軍した。魏から、夏侯覇が数十騎の配下を連れ、投降してきたのだった。 「夏候覇、何しに来た」  姜維が、関所の門上から叫んだ。夏候覇が、姜維に向かい、答えた。 「魏で、クーデターがあり、征西軍事統括であった親族の夏候玄が更迭され、征西軍事総指揮官に郭淮が。俺は、命を狙われると思い、亡命した」  夏候覇は、郭淮とは犬猿の仲であった。魏での混乱は、こうして蜀に知らされたのだった。 混乱の様相は、こうだ。魏帝の曹芳は先帝の陵墓に参拝するため高平陵に向うため、曹爽とその弟の曹羲を付き従わせて行った。司馬懿は一行が出かけたのを確認すると、すぐさま宮中に参内し、郭太后に、曹爽らは、皇帝をないがしろにして私利私欲な政治を行っていると上奏した。その後、高平陵の変にて、曹爽等は、地位を剥奪され司馬懿一族が全て権限を握ったのだった。 その後、司馬懿が曹爽を誅殺し、曹爽の従弟夏侯玄も朝廷に召喚し後に殺害し、後任に郭淮を就けた。夏侯玄は夏侯覇の従子に当たる続柄である。  姜維等は、夏候覇の話を聞き、成都へ夏候覇を連れて行き、皇帝劉禅へと謁見させた。劉禅は、夏候覇の投降を非常に喜び、 「王平が死に、武官が欲しいところであった。呂布や関羽に匹敵する武将が、幕陣に来た」  と、言っていた。また、張飛の親戚にもあたるため、小躍りに喜んだ挙句、高い官職を与えた。夏候覇は、思いもよらない待遇に、逆に呆気に取られたが、蜀での歓迎ぶりに安堵した。  夏候覇は、味方に裏切り者として警戒している者も多く、普段から肩身の狭い思いをしていた。蜀でも誰からも信頼があり、辺境の族衆からも信頼されている張嶷のうわさを聞いており、取り入ってもらおうと、彼の邸宅へと足を運んだ。 「張嶷殿、お噂はかねがね聞いており、我々は敵同士でもあったため疎遠であったが、今日、この日を境にお近づきになりたい」  と、言った。張嶷は、冷静さを保ったまま、 「夏侯覇殿には、足を運んでもらい、恐縮だが、敵だったからと言って警戒もしないが、我は、まだ、お主を知りもせず親交を図るという事は出来ぬと思うが。また、三年の後、その気があれば訪ねて来られよ」  と、あっさりとかわされてしまった。夏候覇は、困った末、廖化を頼った。 「廖化殿、降将のこの夏侯覇、味方にも遠ざけられている始末。廖化殿から信頼を得て頂けないか」  廖化は、夏候覇に、 「その言葉、武に秀でた夏候殿の言葉とは思えぬ発言だな。戦場では、あれだけ暴れていたのではないか、もっと自信を持てばよろしい」 「それもそうであるが、皆の目線が敵視しているようにも見え、また、張嶷殿からも拒否されてしまった」  廖化は、カカっと笑い、 「そんなことは、構わずにいればよい。夏候殿の今後の行動によって、信頼はついてくる」  廖化は、夏候覇の背を叩き励ました。ついでに、姜維に目通りさせ、従軍させることにした。  
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