第三話 五丈原の戦いと諸葛亮の死

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時に、諸葛亮は司馬懿に、女物の着物を贈り、 「甲冑纏い出てこないのは、男ではなく女である」 と、挑発した。司馬懿は激怒したが、司馬師に諭され、結局、挑発に乗ることなく守備に徹して出ることはしなかった。  廖化は、先鋒張翼も、幾度となく小競り合いをするため討って出るが、全く戦にならず、こちらが疲弊するだけであったことを、諸葛亮に伝えた。 「丞相、我々は敵を挑発し、幾度となく目の前まで馬を出しますが、攻めてきませぬ」  憔悴した身体で、諸葛亮は、溜息をつき、 「廖化、分かっている。敵は、一筋縄ではいかないのだ」 「丞相。お身体に堪えます。お休みを取っては?」 「ああ、他の事は、姜維と楊儀に任せ、費緯を呼んである。少し休むから、頼むぞ」 「御意」 「廖化、苦労をかける」  日に日にやつれ、覇気が無くなっていく諸葛亮に、廖化も心配になっていたが、彼の変わりは誰一人としてこなせる者も無いのは理解していた。 魏との睨み合いは、五丈原で長く経ち、魏の諸将の間には撃って出るべきという気運が高まりもあり、司馬懿は、蜀軍の隙を見て、攻める姿勢をも見せた。 「大都督、皇帝の意向をお忘れか!」 「む、それは、そうだが、進軍の機をも逃すことにもなりうるぞ」 辛毗が曹叡の命令を携えて陣を訪問し、司馬懿に書簡を投げつけ、出撃してはならないと命じた。自分に剣を突き立て、 「進軍するなら、この儂の屍を越えて行け!」 と、司馬懿を罵ったため、司馬懿は、攻める事をせず、防御のみにとどまった。これにより、蜀軍は、より、兵糧不足が深刻化し、勝機を失っていた。 諸葛亮は、攻めに転じない魏軍に対し、憤りを感じていたのと、自分の体調が、刻々と悪化していくのが分かった。 「もしかしたら、ここまでか。先帝の夢であった、漢復興が叶わぬまま……」  籠で、涙を浮かべる諸葛亮であった。  ある日、軍議で、魏延が攻める姿勢を出す発言をした。楊儀や姜維が反対し、諸葛亮は待機する指示を与えていた。魏延は、怒りに任せ、退席した。その後、陣営で廖化は魏延に声をかけられた。 「廖化よ、聞かれてはまずい話がある。ちょっと、我が幕陣に来い」  魏延は、年の頃は同じくらいだが、軍功が著しく多く、位が上であったため、廖化の方が古参であったが、立場は魏延の方が上であった。 「魏延殿、何か?」 「廖化、お主も先帝から仕える古参で、この魏延と同じ荊州の生まれ。お主とは、あまり交流は無かったが、本心はお主を信頼している」 「はっ。ありがとうございます」 「して、廖化。丞相は、近いうちに没するだろう」 「魏延殿、何と不吉なことを!しかも、今は、魏との交戦中ですぞ」  魏延は、廖化をなだめるように、手のひらを挙げ、落ち着けと言う素振りをした。 「まあ聞け」 「魏延殿、何が言いたいのだ」 「率直に言う。丞相が死んだら、軍権はこの俺が掌握する。お主も、俺について来い」 「えっ?」 「良いか、楊儀や姜維の若造に命令されるのならば、奴らを斬ってやる」 「魏延殿、軍権は、丞相が命ずる者の軍律です。勝手に剣を振りかざしては、それは謀反と同じことに」 「黙れ!良いか、お主も含め、他の者は凡庸で、俺のように大軍を率い、国を背負った戦いができるのか!」 「そ、それは……」 「お主にも、良い役職を与える。よい返事を待っている」  そう言い残すと、魏延は、部隊へと去っていった。  廖化は、魏延の自信がある発言には一目置くが、勝手な振る舞いは、状況によっては恐ろしいことになると悟った。  
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