第三話 五丈原の戦いと諸葛亮の死

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 廖化は、こっそり諸葛亮の脇に行き、一部始終を話した。 「丞相。魏延の本心は、自分が全ての軍権を保持することです」 「廖化よ、よく話してくれた。その魏延の事は、私も予想はできた。上方谷では司馬懿と共に亡き者にしてやろうと思っていたのだ。しかし、天が味方しなかった」 「丞相……」 「馬岱を呼んでくれ。そして、これを後で読め」  廖化は、手紙を貰い、馬岱を呼ぶと、馬岱に何か策を与えているようであった。  手紙を開くと、『刎頸の交わり、貴殿がいたから戦も楽であった。私と、廖化は信の友であった。これからも蜀を頼む』と書かれていた。 「丞相……」  廖化は、涙を浮かべ、諸葛亮に感謝をし、して、もう死期が近いことを悟り号泣した。 その後、楊儀、姜維が呼ばれ、諸葛亮は、事後の事を託した。   蜀軍と魏軍の対陣は、その後も百日余りに及んだが、動きは無かった。 その八月、志半ばに、諸葛亮は病没した。五十四才であった。  蜀軍は、諸葛亮の葬儀を早急に行い、楊儀に軍権を渡るように引き継いだ。執り成しは、姜維と費緯が行ったが、魏延が楊儀に剣を突き立て、軍権の符を奪った。 「楊儀、お主では、この蜀の大軍は率いることはできぬ。皆の者、北伐はこの儂が引き継ぐ!」 「魏延、丞相の遺言は、このまま撤退することだぞ!」  楊儀や姜維が反発したが、魏延の勢いと武力が強いため、皆逆らえずにいた。魏延は、楊儀の鼻先まで剣先を近づけ、楊儀は、その場で腰が砕けた。 「ぐははは、腰抜けめ。張翼、呉班に命ずる。これから、北伐を再会する故、五丈原にて敵を迎え撃つ。馬岱に命ず、征西将軍に命じ我が軍の統率を行え」 「王平、お主、上方谷で、儂に火を付けようとしていたのは知っているぞ、軍罰を下してやるからな!」  焦りを見せた王平だった。 「そ、それは……」  魏延は、王平を無視し、皆に命令した。 「皆の者、出兵するぞ」  魏延に皆拝謁し、このまま北伐を行う流れになるかと思われた。馬岱が、廖化に目配せをし、魏延の去った陣営で、身振りで伝言をしてきた。丞相から、遺言で何か授けられたのだ。廖化は、とっさに魏延の陣営に出兵し、廖防陣を布き、動きを封じた。馬岱は、 「謀反を企てた魏延を、ここで誅殺する!」  と叫び、王平は、 「丞相が亡くなり、間もないのに、お前らはなぜ戦をするのか、謀反なるぞ!」  そう言い、魏延の兵たちに一喝し、魏延の兵は散りぢりとなった。魏延は、息子共々逃げ出したが、王平の追手により捕縛され、馬岱は魏延を斬った。魏延とその息子は、その場に倒れ、兵符は楊儀が奪い返し、 「丞相の遺言だ。皆、撤退を開始する!退却時、王平は敵の追手を防ぐため、伏兵するように」 「御意」  魏延の死で、蜀軍は五丈原より撤退する方向で動き出した。魏延の謀反で蜀国内が荒れないよう、親族三族までも連座して殺された。  楊儀は、軍権を掌握した形とはなったが、成都に帰るまでの仮の軍権であった。成都に着いた蜀軍一行は、皇帝劉禅の詔で、暫く喪に服すようにという事で、交戦も休戦することになり、内政に力を入れるよう、諸葛亮の遺言通りに取り仕切ることになった。劉禅が、諸葛亮より渡された人事の書簡を開き、新たな人事が発表された。大将軍には蒋琬、その補佐の後軍師には費緯、右監軍・輔漢将軍には姜維が指名されていた。王平も後典軍・安漢将軍として出世した。  楊儀は、自分が諸葛亮の地位を引き継ぐものだとばかり思っていたため、中軍師という役職に不満を漏らし、蒋琬と費緯を責めた。しかし、そのことを劉禅に咎められ、庶民に落とされ、蒋琬、費禕に実権を全て掌握され失脚した。  魏軍は撤退した蜀軍を追撃しようとしたが、伏兵していた王平の軍は、反撃の形勢を示し、司馬懿は慌てて軍を留まらせた。その陣中から、籠に乗った諸葛亮が見えたのだった。 「諸葛亮だ、あいつは生きていたのだ!これは策略だった、退けー!」  司馬懿は、一度も抗戦をせずに五丈原まで退却し、人々はこれを揶揄して『死せる孔明、生ける仲達を走らす』と語り継がれた。 司馬懿は人伝にこのことを聞き、 「儂は生来ている者を敵にする事は得意だが、死者を相手にするのは不得手でな」  と、笑いながら話していたとう。司馬懿は、空を見上げながらつぶやいた。 「諸葛亮よ、儂の好敵手は、もういなくなった。面白くないではないか……」  そう言い、涙を浮かべた。
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