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その年の夏、迷当大王率いる羌族三万は、蜀軍と対峙した。騎馬が主戦の羌族兵に対し、歩兵と弓兵を統率した蜀軍は、攻める羌族の足を止めた。
羌族首長の迷当大王は、騎馬主体の部隊で攻めており、弓と守備の強い重装盾歩兵の蜀軍に苦戦していた。このまま攻めれば、壊滅してしまう。
「大王、いかがいたしますか?」
「漢族め、羌の領土を脅かし、我らを奴隷のように使ってきた民族である。魏だろうが、蜀だろうが許せる相手ではない。なんとか、打ち破りたいが……」
「しかし、こちらの分が悪いです。敵と一度講和をしては?」
その頃、輔漢将軍姜維が、征西軍陣営に到着し、廖化や王平と軍議を開いた。姜維は、羌族との繋がりが強くあり、講話ができる可能性を持っていた。
「姜維将軍、羌族からの攻撃は、食い止めており、我々の戦況が有利になっております」
句扶が姜維に伝える。姜維は、頷いて、
「羌族は確かに騎馬主体の攻撃で危機に陥った。しかし、我らが攻撃に転じれば、敵の力は侮れない。羌族は、無弋援剣という英雄の子孫で、軍事に関しては、神がかりに強いと言う」
「将軍、いかがいたしましょう」
「このまま、同盟を結び、魏と共闘するよう画策しよう」
姜維の言葉に、皆、驚いた。廖化は、姜維に、
「敵の大王は、その盟約を守りましょうかね」
と、問うと、
「ああ、大丈夫だと思う」
と、自信ありげに答えた。
姜維は、羌軍に使者として廖化を出し、迷当大王の出方を待っていた。
迷当大王は、使者である廖化と対面した。迷当大王は、中背で凛々しい顔をし、聡明な男であった。
「お主が、姜維将軍の使者か。して、蜀軍は、何と言っているのだ」
「廖化と申します。姜維将軍は、先代丞相の諸葛亮の言葉を今思い出し、我らと共に、魏を打ち破ろうと申しております」
迷当大王は、その言葉に、ハッとした。以前諸葛亮に何度も攻撃を防がれ、迷当大王が包囲された時のこと、諸葛亮は、こう言って羌兵をみな解放し、停戦を呼び掛けたのだった。
「我々は、同じ人間。戦を繰り返しても憎しみと苦しみしか生まれず。今、逆賊を討伐し、中かを安んじることで、我らの争いは無くなりより良好な国交を約束できるだろう」
と。
迷当大王は、暫く考えた後、廖化に言った。
「お前、今後は、我等とどう戦う予定だった?」
「吾輩は、守戦防衛が得意な将で、凡庸であります。羌族の猛攻は蜀軍にとっても脅威。出方を待ち、攻撃の糸口を潰していくのみ」
「ふっ。凡庸な将よ。自らを低く見せながらも自信ありげな態度だな。なぜ、将軍なのだ?」
「それは、仲間を信じ、主のため、他の将のため粉骨砕身働いた結果。それに代わるものはない」
「ほう。我が族が盟を交わした際、お前は、賊と罵っている我々のために骨を折ることもするか?」
「賊とは、蜀国および、漢帝国の妨げになっている輩の事。仲間に対しては、同じ目線で、同じ目標のために突き進み、共に敵を破るのみ」
「同じ目線で、か。良い言葉だ。廖化殿の進言、感服致した。あい、分かった。我らの敗北は認めておる。蜀軍と盟約を結び、共に魏を打ち破ろう」
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