第五話 将軍夏侯覇

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第五話 将軍夏侯覇

 二四三年、蜀の大司馬蒋琬は、諸葛亮の遺志を受け継ぎ、大掛かりな上庸経由での北伐を計画していた。しかし、実施しようとしていた北伐を実行できず、志半ば病に倒れた。軍事・政治に関することを費緯に一任し後を託し、自分は涪城へ移動し、最後の気力を振り絞り魏軍攻略の統率に当たった。  蜀は、魏との交戦を控えていたが、国力は思ったよりも回復せず、北伐をできる状況に数年を要した。蒋琬は、北方の軍事を姜維に任せ、北伐のために駐屯させていた漢中より、兵の主力を撤退させた。  魏では、曹爽が主に実権を握っており、漢中から主力を撤退した蜀漢を征伐する絶好の機会と捉えた。配下の進言もあり蜀討伐を決意し、将軍李勝と征西将軍夏侯玄を西方に派遣した。司馬懿は、そのことを聞くと、失敗を予期し、曹爽を諌めたが、曹爽と臣下は、 「蜀からの増援部隊が、到着する前に圧倒すれば漢中征服は容易だ」  と言い、漢中攻略できると考え、蜀漢征伐に繰り出した。 二四四年、魏の曹爽は十万の大軍の指揮を執り蜀に侵攻した。 蜀の王平は魏の侵攻を聞きつけ、配下に守備を周知した。配下等はこのとき、漢中の守備兵は三万に満たない寡兵であり、主力は後方の涪に移動しており、皆、大いに慌てた。廖化も、王平と共に漢中に駐屯しており、その話は、早くも聞いていた。 「王平殿、守備兵は明らかに少ないが、いかがいたす」 「無論、迎え討つ」  配下の劉敏は、 「魏は大軍、どう守れましょう。漢中城を棄てて一時後退し、進軍先の漢城と楽城を固守して援軍を待つべきでは」  王平は、頑なに劉敏の弱気な発言を退け、 「いや、一時的にも、漢中城を取られることは危険だ。しかも、漢城と楽城も、涪城から援軍が間に合わず、両方落とされる可能性だってあるだろう」  その王平の言葉に、廖化は言った。 「そうなれば後がない、ここで敵の侵攻を死守し、長期戦に持ち込み援軍を待つのが善策」 「そう言う事だ」  王平は、廖化に向かい、頷いた。 その頃、蜀では、魏侵攻の話を聞き、尚書令費緯が、涪の主力兵を動員し、援軍に行くことを指示した。 「これは、魏との決戦である、北伐の雪辱、丞相の遺恨を晴らそう!」  費緯は、自分自ら兵を率い、援軍に向かった。 王平は、策を巡らし、あえて魏軍を進軍させ、句扶と対峙させた。また、進軍経路の駱谷道の興勢山へ、劉敏と杜祺を派遣した。その守備強化のため、廖化と張翼を守らせ、それ以降の陣地を固守して援軍を待つ作戦を取った。 王平は劉敏に命じ、 「我が軍は、少ない。敵に錯覚させるために、百里余りに渡り、多数の旗幟を立てよ」 「それは、何故でしょう」 「敵は、こちらが多くなったと思い、援軍が早くも到着したかもしれないと疑い、一気に攻めて来ないだろう」 「御意」 「俺は、後方で指令と支援に当たる。また、もし魏の別動隊が黄金谷を通ってきた場合には、俺自身が迎撃できるように備えよう」  皆、王平の軍略に同意し、戦の準備に散った。 四月、王平の予想通り魏軍は駱谷道を通ってきた。山間の細い道であるため、魏の兵団は、長い行列となった。 隘路に立てこもり蜀軍は、魏軍に攻撃を仕掛け、魏軍は進軍を阻まれ、先に進めない状況になった。 「劉敏、杜祺。魏軍が進軍できず、我々の策が当たったようだ」  廖化が喜んでいると、隘路から少し開けた場所に魏軍が数百騎厚集まりだした。 「蜀の大将よ、我名は夏候覇!堂々と勝負しろ!」  夏候覇は、大きな声を張り上げ、挑発してきた。廖化と張翼が精鋭を引き連れ、その場に駆け付けた。 「劉敏よ、敵の挑発には乗るなよ」 「ぎ、御意」  夏侯覇は続けて、蜀将を罵った。 「蜀の将は、若輩者ばかりで、出てこれないと見えるな!」 「なにを!」 杜祺が、苛立って、馬で数歩歩み出た。廖化が、それを見て制止させた。 「敵は、武力に長ける夏侯淵の子、今出れば死にに行くようなものだ」 「し、しかし!敵に舐められたままで良いのですか」  その時、痺れを切らした句扶が、夏侯覇に一騎打ちをしかけた。 「おのれ、賊め!」 「句扶か、好敵手。槍の錆になれぃ!」 句扶は、果敢に攻めたが、夏候覇に十数合合わせただけで、斬られ、致命傷を負ってしまった。 「ぐふぅ……」 「敵の将軍を討ち取ったり!」 夏侯覇は、高々と槍を掲げ、魏軍は大いに士気が上がっていた。反対に、蜀軍の士気が下がり、兵は夏候覇を恐れおののいていた。
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