第五話 将軍夏侯覇

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  興勢の戦いから三年、魏との交戦した際、迷当大王が支援無く敗れたため、蜀との関係もひびが入っていた。  廖化は、姜維の指示で西方にある羌族の領内で、各部族の首領と話をつけ、魏を支援しないよう、また、蜀との関係を修復し、兵や馬の提供をしてくれるように頼みこんでいた。羌族の各部族長である、餓何(がか)・焼戈(しょうが)・伐同(がどう)、涼州蛮族の蛾遮塞(ちむたい)は、節度ある対応をする蜀将の廖化を、友好的に迎えた。 「廖化殿、我が西方の異民族に対し、友好的に対応してくれ、ありがたい」 「それで、だが……」  廖化は、話を濁した。実のところ、費緯や姜維は、羌族の事に対し、心底信頼を置いているわけではなく、いつ魏に裏切るのかという事を心配していた。廖化は、言いにくそうな顔をして、羌族首長等に向け、口を開いた。 「とても言いにくいことなのだが、我々蜀の上層部の人間は、羌族は魏に寝返る可能性をも示唆している」 「な、なんだと!」 「この期に及んで、蜀はこの羌族を馬鹿にする気か!」  羌族首長らは、怒りを露わにして、廖化を罵った。 「首長らよ、言いたいことはわかる。儂も、それは疑いたくないし、共に戦う友として考えている」 「廖化よ、では、なぜだ?」 「以前、迷当大王と共闘したが、結局は敗戦した。それを蜀が支援せずにいたからと考えており、我々に不信感を持っているかもしれないということもあるだろう」  羌族首長等は、口を閉じた。廖化は、 「我々は、魏に対抗するには、お互いが背かないように互いの身を削り答えなければいけないと思っている。蜀は、この戦いに勝ったあかつきには、羌族に領土と官職を与える予定だ」  羌族首長等は、廖化を見上げ、顔を輝かせていた。羌族にとっては、漢の領土を得るという事は、安住の地を得ると同じことなのだ。 「あい、わかった。して、蜀は何が望だ」 「首長達よ、こういう発言を儂が言わざる負えないのが、大変心苦しいのだが、我々に人質をくれ」  廖化の発言に、首長達は、皆固まった。ただ一人、蛾遮塞は、笑いながら言った。 「この男、自分の危険をも顧みず、職務を全うし、言いにくいことも我々に伝え交渉に来た。この男は、信頼できる。我が子を人質にやろう」  蛾遮塞は、子の威旻(イブン)を渡すと約束をした。 「蛾遮塞殿、家族と民の安全と生活の支援は約束する。我々は、一心同体として戦うことを誓おう」  他の羌族首長も、その言葉に皆立ち上がり、各族から人質が蜀へと送られ、羌の兵士も集められ兵団を纏めた。  姜維と廖化は、蛾遮塞等羌族と手を結び、魏に兵を向け侵攻した。廖化は成重山に留まり築城し、羌族や蛾遮塞は涼州から魏軍を挟み撃ちする陣を取った。姜維の心配懸念であった、寝返る可能性のある有力羌族の各族長たちの家族は人質としたが、安全な場所に避難させて信頼を確保した。  魏では、挟み撃ちとなった軍とどう戦うかの軍議がなされていた。 「東の主導からは姜維等蜀の主戦が陣取り、南の成重山には廖化が、涼州方面からは羌族等が来ているがどうしたら良いか?」  曹爽は、諸侯に対策を問うた。 「進言します。我軍総勢十万を蜀主戦に向けていますが、三万を分け廖化の居る成重山に攻め、主戦の夏候覇を先鋒とし、姜維にぶつけるべきです」 「廖化の築城し守備する蜀軍は鉄壁であり、兵を分けて当たらせれば、姜維の軍に勝てる者も勝てなくなるだろう。その案は駄目だ」 「そうだ、分断は、我々の不利になる」 夏候玄や曹爽も、乗り気ではなく、諸将が郭淮の、軍を分けて廖化を攻めるべきという判断に反対した。 夏候玄は、雍州で実権を執り、命により夏侯覇は沓中で姜維と対峙した。郭淮は、西方から来る羌族等の攻撃を退け、急遽後軍を翻し、総指揮官の曹爽の反対を退け、廖化を兵を分けて攻撃した。また夏侯覇を姜維に当たらせた。 「むっ?あの軍は?」 「郭淮です!」  廖化軍は、魏軍が攻めて来ないと踏んでいたため、郭淮の奇襲に驚いた。 「すぐ、姜維将軍へ伝令を出すのだ!熊、曜、守り抜くぞ!」  
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