第一話 水師の表と第一次北伐

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 諸葛亮は、右腕馬謖を連れ、戦略を練った。最重要武官と共に、北伐の侵攻路や輸送について幾度となく議論を交わされた。  将軍の魏延が、 「長安を守るのは、戦下手な夏侯楙と聞く。我が三万を率い、子午道を通り、長安を奇襲すれば、落とせるはずだ」  と、自信ありげに話した。しかし、諸葛亮は、 「その戦略は危険すぎる。今は、イチかバチかで戦力を失いことはしたくない。正攻法を使い、間違いない方法を取る」  と、却下した。楊儀も魏延に対し諭した。二人は、元から犬猿の仲であり、魏延は自分の進言を否定されたため、魏延は楊儀に剣を突きつけ、 「その口をふさぐため、お主の細首、落としてくれるか!」  魏延の攻撃に楊儀は腰を抜かし、泣きながら命乞いをしたが、費緯が間に入り事を収めた。魏延は、機嫌が悪い顔をしたが、趙雲が諭した。 「この二人の関係の悪さが、今後に響かねば良いが……」  諸葛亮は、内心そう感じていた。 諸葛亮と馬謖が決定した戦略は、主力を斜谷道から天水に出る路を進み、趙雲と鄧芝には陳倉道を囮として進ませ、引き付けるというものだった。  諸葛亮は、兼ねてから書簡を送り連絡を取っていた孟達と話を合わせ、決起する時を待っていた。同じく呉とも連絡を取り合い、襄陽から、孟達の居る上庸を守るよう、陸遜などと支援を約束していたのだった。  この行動を先読みしていた人物がいた。魏の司馬懿である。司馬懿は、独断で呉の対策を講じ、早急に孟達を攻撃し殺害した。この計略の中で重大な役割を担っていた孟達であったが、司馬懿の神速な攻めによりに、計画は頓挫し敗れてしまったため、結果として漢呉の連携は崩れ、孫権も本格的な出兵に踏み切れぬまま、諸葛亮軍のみで敵に当たることとなったのであった。諸葛亮は、悔しがったが、 「まだ、勝機はある。祁山と天水を結ぶ街亭さえ守り抜けば……」  諸葛亮は、唯一の作戦を練っていた。 魏の雍州刺史郭淮は、天水郡を巡察中であったが、蜀が攻めてくると言う話を聞きつけ上邽へと退いて事態を見守ることとした。魏の司馬懿は、郭淮に敵の侵攻を防ぐよう伝令を送っていた。 蜀の軍議では、先鋒の人選として、この時、魏延と呉壱が適任であるという意見が多かった。しかし、諸葛亮は、強く、馬謖を推してきた。 「馬謖よ、次の世代は、お主が我を継ぐ者だ。この初陣を飾れ」 「丞相のご厚意、感謝いたします」 「副将に、冷静沈着で、戦に慣れている王平を就ける。街亭は要所だから、何としても敵の侵攻を防ぐよう。籠城し、山には布陣は避けよ」 「御意」  この指示を、王平や他の将も聞いていた。廖化も諸葛亮の軍として配属していたため、聞いていた。馬謖は、智勇兼備の才能を誇り、他からも評価が高く、それを鼻にかけていた。廖化は、兄と親友だったこともあり、その性格を心配した。軍議が終わり、皆が解散した後に、馬謖に声をかけた。 「幼常、この度の先鋒、頑張れ。丞相の指示を忘れないよう。副将の王平は、義の男だから、信用できるぞ」 「元倹殿、分かっております。これまで、丞相に兵法を叩きこまれましたから、大丈夫ですよ。元倹殿こそ、健闘を」  それとない会話をしたのみで、二人は別れた。馬謖は、軍をまとめ、街亭へと向かった。廖化は、諸葛亮軍の参軍として軍を率いて祁山へと兵を進め落とした。ここを拠点とし、列柳城を築城し、上邽での対峙に備えた。ここに、高翔を派遣し、計画通り趙雲と鄧芝を褒斜道に進ませた。 この諸葛亮の動きに、隴右領主たちは、狼狽し慌てふためき、諸葛亮を恐れ逃げる者も多く、天水、安定、南安の三郡が漢へと寝返った。この時、天水太守の配下であった、涼州豪族の名士、姜維が降伏してきた。 「さあ、後は、街亭での領土死守のみ」  諸葛亮は、馬謖の戦功を期待していた。  魏の大将軍曹真は、趙雲と鄧芝の軍を抑えることに必死であり、街亭の守りに適任の将を派遣できずにいた。趙雲舞台で、若手の武将が活躍していた。 「敵の総大将、張良の末裔、張翼がここにいるぞ」 「あの張良の…… く、この曹真を舐めてかかりおってからに」  思うように攻めきれない魏軍は、蜀軍に阻まれ動きが取れずにいた。 司馬懿は、この状況を察知し、荊州より張郃を呼び戻すよう伝令を出していた。曹真は、張郃を呼び隴右へと向かわせ、そのまま街亭へと向かった。  張郃は、百戦錬磨の武将であり、戦の経験は魏随一と言う者であった。張郃は、敵将を確認した。 「街亭を守っている蜀将は誰だ」 「馬謖という若造です」 「馬謖?聞いたことも無い、他は?」 「副将として、王平が配属しております」 「あの裏切り者めが、この張郃が懲らしめてやろう」  張郃は、郭淮と連携を取り、上邽を郭淮、街亭を張郃が攻める事となった。  蜀軍は、馬謖と王平が街亭城で、魏軍に対峙する策を練っていた。馬謖は、張郃の陣を見るや否や、 「敵は、我が軍より多く、洗練されている。我が軍は、敵に勝る策を持って戦をしなければいけない」 「馬謖殿、丞相は籠城し街亭を守れとの仰せです」 「兵法の上策では、敵の上を行く者がより攻撃に勝るという。我は兵法に通じ丞相に長く教わってきたのだ。王平よ、山頂に陣を布く」 「馬謖殿、どうか、山頂に陣を布くのはお辞め下さい。我が軍が包囲され、孤立します」 「上策を取るのだ、いくぞ」  馬謖は、王平の進言を退け、単独山頂へと軍を率いた。山頂で陣を布く蜀軍であったが、王平は、馬謖に再三諫めた。 「この山頂は、見渡す限り敵に見え、包囲されたらひとたまりも有りませぬぞ」 「王平、くどいぞ、兵法を知らぬか。平地より、高地からの攻撃が上策で虚を突き、敵情報も得られ、攻めに勢いがあるのだ。包囲など突破できる」  王平は、わざと馬謖に遠ざけられ、これより進言できずにいた。馬謖は、山頂から張郃軍を見下ろし、動向を伺っていた。王平は、祁山の諸葛亮宛てに手紙を送った。  
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