第五話 将軍夏侯覇

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 砦付近まで押し寄せた郭淮は、投石機や梯子を駆使し、攻城作戦に出た。 「廖化よ、ここまでだ!姜維も動こうぞ」 「…… 郭淮め、してやられた」  結果、郭淮の読み通り姜維は伝令の話を聞き、廖化を救援するために、軍を移動させた。 「郭淮め、なかなかの知将であったか」  姜維は、先に敗走していた、羌族兵と蛾遮塞軍を招集し、羌族兵と合流した姜維は、郭淮の大軍に攻められた廖化を助けるべく、成重山へと向かった。 蜀軍の援軍を見つけた廖化は、驚いた。 「姜維殿、何故ここに!魏軍は、わざとこの廖化を攻めただろうに」 「廖化よ、そんなことは知っているが、ここで救援せねば、退路は塞がれ、この軍もろとも魏軍に打ち破られることとなったはずだ」  廖化は、項垂れた。これで、蜀軍の敗北は決定的となり、北伐の好機を逃してしまったからだ。 「要所を守れなかった、不甲斐無い……」  廖化は、久々に自分を責めた。姜維は、戦略的な面で、敵の方が上手であったことを説明したが、廖化は、納得がいかなかった。 「この廖化は、守備こそ本業。それが至らなかった戦で敗戦とは心が痛む」  敗戦し、退却する蜀軍を追って夏候覇が深追いし、蜀軍に囲まれたが、魏軍郭淮は助けに来なかった。 「郭淮め、この俺を陥れたな!」  怒りに燃えた夏侯覇は、蜀軍をなぎ倒しながら退路を作り突破口を見つけ出そうと勢いよく北進していた。それを見た廖化は、好機と捉え、 「名誉挽回だ、夏候覇を止める」 「廖化殿、あの夏侯覇、勢いを止めれますか。命がけですぞ」  馬泰が止めに入るが、廖化は決心していた。 「陣を布け、廖防陣だ!」  廖防陣を布いた際、姜維軍から、蛾遮塞と、子の威旻が援軍に入った。その布陣は、まるで七の将が七星の如く拠点を守る、強固なものとなった。 「また廖化か、抜いてくれる!」  夏候覇は、力ずくで突破しようとした。蛾遮塞と威旻が馬上から弓を討ちながら、後退し、代わって、曜が弩弓手を配備し、夏侯覇軍を打ち抜いた。勢いが弱ったところ、甘櫰の盾兵がぶつかり、夏候覇軍前衛の動きは止まった。 「なな、我が軍が止められるなど!」  盾兵に囲まれ、もがく夏候覇に、廖化、熊、曜、馬泰の部隊が押し寄せ、取り囲んだ。 「夏侯覇よ、ここまでだぞ!」  廖化が叫んだ。 「廖化なんぞに負けるなど、あるものか!」  夏候覇は、なおも力ずくで攻め寄せた。多少押され気味になった廖化軍であったが、最後方に姜維軍が夏侯覇軍に押し寄せ、取り囲んだ。 「姜維の軍まで…… くっ……」  姜維は、夏候覇に降伏を呼びかけた。 「夏侯覇よ、お主のような破壊力を持つ武がある武将を蜀には欲しい。降らぬか」  夏候覇は、暫く口を閉ざした。そして、 「この夏侯覇の突撃を止めたのは、廖化等、武では絶対に負けないだろうと言う輩だった。それはなぜか」  廖化は、夏候覇に向かって語った。 「確かに、お主の武にはどう足掻いても勝てやしない。だが、我々には、仲間という剣と、信頼という盾がある。それを貫き通す槍はお主には持てていなかったという事だ」  夏候覇は、不敵に笑みを浮かべ、 「仲間か…… そんなものは俺には必要ないものだと思っていたがな」  姜維の軍に向かって突進した夏侯覇は、自軍を犠牲にしながらも突破し、夏候覇は北へと去っていった。  去り際に、 「友情という剣の力、思い知ったわ、廖化」  そう言って数十騎となった軍と共に魏国境へと消えていった。  廖化軍が、完全に魏軍を抑え、最強の守備軍として名を馳せた戦であった。しかし、これを機に、甘櫰や馬泰は、負傷から戦線離脱し、熊や曜は病気になるなど、部隊の入れ替わりが激化していった。
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