第六話 司馬懿の魏掌握

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 廖化は、息子の興が成人し宮中でいたが、最近、軍人になりたがっていることを知った。しかし、自分の子が、武に秀でていないことを知っており、諭して止めさせた。 「興、お主は武に秀でておらず、我と同様、凡庸だ。文官として官吏となる道を行くが良い」 「ち、父上、私は、父上と同じ戦場に出たい」 「命を粗末にするな。これは、命令だ」 「父上……」  廖化は、嬉しかった。本当は、息子と共に戦ってみたかったが、それと同様に、死地に向かわせることを恐れた。廖化は、子をなるべく安全な場所に入れるよう、荊州派の費緯に取り合った。  姜維は、夏侯覇の軍を取り入れ、魏が混乱している今、いよいよ、諸葛亮の悲願である北伐を大々的に行いたいと上奏した。劉禅は何も言わなかったが、大将軍費緯は、その言葉を否定した。 「今は、我が国も小国であり、人材がいない。まずは、人材育成と徴兵が最優先である。それでも行くならば、一万の兵以上は与えられぬ」  と、軍権を規制した。姜維は、食い下がったが費緯は断固として反対した。姜維は、意地でも北伐を敢行しようと、新たに参軍した夏候覇を追従し、漢中へ行軍したのだった。  姜維が雍州へと進軍すると、魏は、郭淮を大将として防戦した。 「夏侯覇よ、郭淮は文武両道の将ではあるが、お主より明らかに武の威力は劣る。一気に攻め寄せよ」  夏候覇を、右軍、姜維は本陣で羌族兵を率い、郭淮に当たった。左軍として、廖化が付き添っていたが、満足に兵を預けられておらず、本陣の補助的攻撃を行う程度であった。  魏軍は、国内で混乱があったものの、七万の兵であり、蜀軍は姜維軍一万に羌族兵三千、夏候覇と廖化の兵は、五千ほどであった。 「夏侯覇の攻撃は確かに強いが、これでは多勢に無勢だ」  姜維は、蜀兵の少なさを恨んだ。夜、幕陣で軍議をしているところで、夏候覇と廖化を集め、今後の交戦について話し合った。 「我々の兵は、思いの外少なすぎる。敵は郭淮で、なかなか手強く、新たな将も連れてきており、どのような者か探りも入れねばならない」 「では、姜維殿、どういたしますか」 「我が軍を、一時退却させる」  姜維の一言に、夏候覇は大きな声で言った。 「ここまで来て、一矢も向けずに退くのか大将!」  廖化は、夏候覇を制して、 「姜維殿、何か策でもあるのですかな」 「ああ、退却とは名ばかり。ゆっくりと退陣し、敵が、協力している羌族へ戦闘を開始したら引き返し、手薄の城を落とす」  皆、この兵数ではまともに戦えないと知っていたため、頷いた。  郭淮は、蜀の退却に乗じて、蜀軍に協力していた羌族の攻撃に向かった。 魏軍には、副将として鄧艾という智勇兼備の将がいた。鄧艾の名を知る者は、蜀にはまだおらず、油断していた。 その鄧艾は、姜維が退却したとはいえまだそう遠くには至っていなかったため、こちらの動きを知ると引き返してくるのではないかと思った。 「郭淮将軍、敵は智将姜維。ここは策を設け、洮城を奇襲する魂胆です」 「鄧艾よ、その意見も確かだ。よし、どのくらい兵が必要だ」 「囮で、三千ほどでよいでしょう」 「そんな少数では、攻め込まれるぞ」 「いえ、奴らは動かないでしょう」 鄧艾は、絶対的な自信を持っていた。そのため郭淮に、軍を分けて一部を鄧艾の兵として残し、白水の北に駐屯させた。 三日後、廖化は、魏陣営が追撃の様相をしているとみて、姜維に兵五千を守備的配置するよう進言した。 姜維は廖化を白水の南に派遣し、鄧艾の陣営の向かい側に陣を布いた。鄧艾軍の兵数は乏しく、兵法から見ても、廖化にこのまま渡河して攻められることが常套手段であった。 「廖化殿、敵の将は兵数も少なく、川を渡り攻めるのがよろしいかと思いますが」  威旻は、進言するが、 「姜維殿の計画は、ここで敵の侵攻を阻止する囮になる、いわば見せ兵の役目を果たしている。動かず様子を見よとのことだ」  廖化は、敢えて守備の陣形を取りながら動かなかった。 「このまま、廖化で足止めをして城攻めを行うだろう」 鄧艾は、姜維自身が東より洮城を攻撃するという作戦に違いないと予想し、廖化は攻めて来ないこが敵中した。洮城は白水の北にあり、鄧艾は、諸将に命じてその日の夜間に密かに軍を移動させた。 姜維は、密かに渡河して洮城へ押し寄せたが、鄧艾が、既に夜間の内に移動し、周辺の軍を引き入れ城に立て篭っていた。 「ぬぬっ、魏軍め、いつの間に」 「廖化将軍からも、敵軍の移動の報告は無く、隠密に行われたのかと」 「くっ、敵将は誰だ!」 「鄧艾と名乗っております」 「鄧艾…… 知らぬ武将だが、智謀に長けていると見た。クソッ、覚えておれ」 姜維は、城攻めを諦めて退却した。鄧艾は、この功績により、将軍職を得、ここ等一帯の太守となり蜀軍の防御に当たることとなった。この事により、蜀は、一層魏に警戒をする必要が出て来たのだった。
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