第一話 水師の表と第一次北伐

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 廖化は、祁山に駐屯し軍を率いていた。そんなさなか、伝令がやってきた。 「趙雲将軍より伝令します。張翼の働きで、弱兵で何とか魏を抑えておりましたが、思いの外曹真軍が大軍のため、趙雲将軍は、防戦一方であり退却を余儀なくされたとのこと」 「あい、分かった。それは、想定範囲内だ」  もう一人、伝令がやってきた。 「王平副将より、丞相に手紙です」  王平の手紙と聞き、諸葛亮は、顔が歪み、ハッとした。その手紙を、開くや否や、玉座に倒れ込んだ。 「じょ、丞相!」  廖化は、側近と共に諸葛亮を抱え、玉座に座り治させた。 「馬謖が、我が指示を聞かずに、城から陣を動かし、山の頂上へと構えた…… この戦い、敗北となる……」 「高い場所に陣を構えるのは、上策ではないのですか?」  諸葛亮に、廖化が聞き直すと、諸葛亮は、怒りで震えながら、 「あの山の環境では、山頂は丸見え、陣を構えたことすら、戦の初心者でも解かる。敵は、戦の達人、張郃を呼び出したと言う。水路と退路を断たれ、殲滅されよう」  諸葛亮は、フラフラと起き上がり、伝令に手紙をしたためた。 「廖化よ、精鋭を率い、退路を守ってくれ。今頃、馬謖は包囲され這う這うの体で退却してくるだろう。高翔の居る上邽を経由し、この事を伝えよ」  廖化は、自分の精鋭五百を連れ、上邽を目指した。  街亭では、馬謖が山頂にて青い顔をして、敵陣を見下ろしていた。 「馬謖殿、水路が断たれ日が経ちます。我が軍は、ここで陣を構えるのはもう困難」 「……。 くっ」  馬謖は、大汗をかきながら、どうすることもできずにいた。王平が、 「南の敵陣を突破し、退却せよ。敵の追撃は、儂が何とかする」  王平が、背中を押すように、馬謖を退却させ、自分は、張郃の追撃を殿で守るように布陣した。  張郃は、敵陣が、破れかぶれで降りてきたため、格好の餌食と言わんばかりに突撃して、蜀軍は、大いに撃沈した。その中でも、王平の軍千人は、馬謖を逃がし、天水方面へ守りながら退却したため、損失も少なくうまい戦だった。  高翔率いる蜀軍は、魏軍を上邽で防いでいたが、敵将の郭淮に手こずっていた。廖化がようやく高翔の軍に来たときには、蜀軍が、南西方向に推されている最中であった。 「高翔殿!街亭が落ちるため、退却せよ!」 「な、なんだと!」  高翔は、驚いて、全軍を南に退却させるように命令を下した。郭淮は、背を向ける蜀軍に対し、正攻法で突撃してくる。廖化は、高翔軍を守ろうとしたが、郭淮の上手い兵法に、違和感を感じた。 「力押しでもなく、知略を巡らせた奇策を用いず。やけに正攻法で戦いにくい。これは、敵将は郭淮と言うが侮れぬ奴だ」  高翔軍が、一度瓦解して退却したが、援軍の蜀軍が、守備に長けていたため、追撃も程々とし、街亭から馬謖軍を追撃していた張郃軍と合流し、隴西郡の蜀に寝返った三郡の平定へと矛先を変えた。郭淮は、 「敵の援軍守備軍は、廖化と言ったな。なかなか守備に長け力押しではいかない、正攻法を取る。攻めにくい侮れぬ奴だ。はて、違和感がある何故だろう」  郭淮も、廖化との戦にとって違和感を感じていた。  蜀軍は、魏軍に大打撃を受けながら退却をした。諸葛亮は、天水等三郡も魏の張郃、郭淮の手に落ちそうだと聞くと、 「長安を攻める進路を失った…… 最初で最後の可能性を失なった」 と、嘆き、巫山を棄て、漢中へと全軍を引き返した。 馬謖は、漢中にいる、旧知の仲である向朗の元へ逃げた。 「馬謖よ、どうしてここに?」 「わ、私は…… とんでもないことを犯してしまった」 「まさか、この度の敗戦は、お主が見誤ったか!」 「向朗、俺は、丞相を裏切った。魏を転覆させるはずの可能性のある唯一の戦いを、棒に振ったのだ。蜀に居れない」 「に、逃げるのか」 「すまぬ、見逃してくれ……」  向朗は、わずかな路銀と馬を与え、馬謖の逃亡を黙認したのだった。  数日後、漢中に帰国した諸葛亮等は、士気が大いに下がり、国中が敗戦色でどよめいていた。諸葛亮は、この度の敗戦を重く受け止め、責任を感じ自らを三階級下げ右将軍に、趙雲も、諸葛亮の降格人事を連座して受けると言い、鎮軍将軍へとなった。処分は、馬謖の事へと移った。  数日前、馬謖が逃げたという噂が広がった。諸葛亮は、足取りを辿り、向朗の元に行ったことを突き止め、向朗に対しても重く処分した。馬謖の足取りは、ここで途絶えたが、廖化に探すようにと命令が下った。  
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