第二話 司馬懿対諸葛亮

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 「廖立!庶民に落とし、辺境へと飛ばしたはずでは?」 「は、はい。廖立は、我が親戚。庶民とは言えど、鳳雛に並ぶと言われた才を持つ者です。この度の戦を見て、わざわざ助言を言いに来たのです」 「あの者は、才はあるが、性格に難がある」 「お恥ずかしい話ですが、本人も、恥じて反省しており、復職を望んでおります故……」 「廖化よ、ならぬ。一度降格人事を行った、信用を失ったものは、二度と機会は与えられるのだ。それが、規律だ」 「……。そうですか」 「廖立は、先帝、その義兄弟をも侮辱し、重臣をも馬鹿呼ばわりをした。復職したとして、彼を信頼し、良政を施せると思うものが居るだろうか。一度外した梯子はもう戻らないのだ。それが現実だ」 「御意」  廖化は、現実の厳しさを改めて知った。廖立は、このまま、庶民のままであるのか。廖化は、幕陣を出て、廖立に諸葛亮より良い返事は貰えなかった旨の手紙を出し、持ち場に戻った。  諸葛亮は、一度の攻勢により状況を好転させており、司馬懿は、状況悪化を防ぐため、深入りせず静観して、今までのように防戦一方となってしまった。  これから好機という時、諸葛亮は、夏になり長雨となると補給が難しくなることを恐れていた。事実、兵糧の輸送が、数日間も遅れていたのである。 その時、蜀から漢中北まで補給を担当していた李厳より、衝撃的な手紙が諸葛亮に届けられた。 『魏と呉が密かに盟約を結んだ。蜀を挟み撃ちにし、呉からの防戦必至となっている。至急、陣を引き上げるが好し』 李厳からの手紙を読み、諸葛亮は予想だにしていなかった事態に慌てた。これが事実なら、一時の遅れも命とりとなり、蜀軍は魏と呉に挟まれ、全滅してしまう。諸葛亮は、書簡を地面にたたきつけ涙を流し、撤退を命令した。退路は、慎重に退却をし、敵の追撃を恐れながら進んだ。 司馬懿は、 「蜀軍は、何故退却を始めた?」  と、怪しんだ。子の司馬昭は、 「原因がわかりませんが、密偵の話では、全軍退却のようです。何かあったのかもしれません」 司馬懿は、退却する諸葛亮に対し、好機と考え、重臣張郃に命じ、早馬で騎馬隊に追撃を命じた。 「我が軍に天は味方した!諸葛亮め、ここで叩き潰してくれよう。騎兵隊全軍で急ぎ追う。儂も騎兵を率い追撃だ」 「大都督、諸葛亮の事です、何か策かもしれませぬぞ」 張郃は、伏兵の策があることを心配し、司馬懿に進言したが、司馬懿は諸葛亮に打撃を与えることにしか目がいってない様子で、渋々張郃は騎馬を率い追った。 諸葛亮は、王平と廖化に伏兵を配置させ、山の谷に前後に配置させた。張郃が通りかかったら、王平に弓と落石で道を塞ぎ、後続にいる司馬懿の軍を、廖化が横撃するよう指示した。 張郃は、警戒しながらも谷間を進んだ。大分進んだ頃、王平は弓隊に合図をし、張郃軍に矢を浴びせた。 「や、やはり伏兵が…… た、退却だ!」 大混乱の中、張郃は退却したが、王平は見逃さず、長江に弓を弾いた。 「ぐっ!」 この時の矢が、張郃の膝に当たり、それが致命傷となり死亡した。 司馬懿の騎馬兵も、谷間の中腹辺りまで進んでいた。前方の張郃軍がどよめき、伏兵がいたことを察知した。 「くっ、伏兵だったか。退却だ!」  埋伏していた、廖化と曜は、 「今だ!」  と、合図し、攻撃を加えた。司馬懿は、落石と弓隊の攻撃を喰らい、打撃を受けた。谷間から出ようとした時、廖化本陣は、退路を塞ぎ、 「司馬懿はどこだ!」  と、敵の大将を探した。 司馬懿は、廖化の方を振り向くと、 「あの大将は、何者だ。してやられたわい」  と、呟いた。司馬昭が、 「あの者は、古参の廖化です。それほど武勇は聞きませんが、無難な戦をすると言います」 「ち、こざかしい奴め」  司馬懿を見つけた廖化は、 「司馬懿、この廖化が首を斬る!」 「廖化よ、お主に捕まるほど、この仲達は愚才ではない」 司馬懿は、少ない騎馬を連れ、小道を駆け抜けたが、廖化と馬泰の部隊に追撃された。 「蜀軍め、しつこく追ってきやがる!」 「父上、先は、二股に分かれてます、どうしますか?」  司馬懿は、自分の兜を脱ぎ捨て、左の小道に投げた。 「右に行くぞ!」  司馬懿は、右に騎馬隊を走らせた。追って来た廖化と馬泰は、二股の道の前で、留まった。
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