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1.本に呼ばれて
「なんでお前、泣いてんの?」
「だぁってえ!こんなに好き合ってるのに結ばれないんだよ?かわいそすぎる!」
借りたばかりの本を読みながら涙を流すぼくを、幼馴染みは完全に馬鹿にしていた。
「由千⋯⋯この間もそんなの借りてきただろ。よく見ろ!この本棚を!!」
幼馴染みの彬光が、ぼくの部屋の大半を占める本棚を指さした。
でーん!と部屋の壁一面を埋め尽くす巨大本棚。
整然と並んだ本が眩しい、ぼくの宝物。
本棚にすりすりと頬を寄せると、呆れたように彬光が言う。
「この中にどれだけたくさんの恋愛ものが並んでると思ってるんだ!女子かよ!!」
「えー、面白さに性別は関係ないもん。アキのばか!」
「なんだと!お前が課題終わらないって言うから、わざわざ家まで来てやってるのに!!」
幼馴染みの凛々しい眉が、怒りの形に跳ね上がる。まずい。
「飽きたからって、本ばっかり読んでやがって⋯⋯」
ぼくが本に逃げている間、彬光は英検の参考書を開いていたのだ。
「ごめんね。今から、ちゃんとやるから」
彬光がテーブルに置いた手を、そっと掴む。上目遣いで幼馴染みを見た。
「そんなに怒るとイケメンが台無しだよ⋯⋯」
この顔にアキは弱いはずだ。
うっ!と呻き、目を見開く。顔は真っ赤だ。
よし、いける。
テーブルの上に放っておいた課題を引き寄せる。ふと、本棚に目を向けて呟いた。
「世の中には、まだぼくの知らない恋が眠ってる。買っても借りても足りないんだ⋯⋯」
「⋯⋯限度はないのか」
彬光が目尻を赤くしながら、ぼくを見て呟いた。
「限度はないけど、基準はある。直球すぎる恋はだめ。すれちがいに勘違い、焦れもだと切なさの上に不憫があるやつがいい。胸キュンエロはいいけど、エログロ入るのはダメ」
「⋯⋯人の好みは難しいな」
幼馴染みは、やれやれと首を横に振った。
翌日。
校門の前で、同じ文芸部の牧村早瀬から声を掛けられた。
マッキーこと牧村とぼくは、背格好も同じぐらいで、髪も茶色っぽい。よく似た雰囲気のぼくらは「どんぐり」と呼ばれている。
恋愛ものが大好きなぼくと違って、マッキーは小説なら何でも読むんだけれど。
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