1.本に呼ばれて

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「ゆちー!これどうよ!!明日海(あすみ)先生の新刊!」 「ひゃー!マッキー、見せて見せて」  恋愛小説の大家。明日海りらの新作!  ぼくは大喜びで手に取った。   「今日、買いに行こうと思ってたんだ」 「おれ、もう読んだから。ゆち、読書タイムの間読む?」 「えっ!いいの?貸してー!」  この1か月間。  朝のショートホームルームの後は、15分読書タイムが設けられている。  読書の秋なので、図書委員会が中心になって活動しているのだ。  本は漫画じゃなければ何でもいい。  かったるいとクラスメイトからは文句も多いが、ぼくは嬉しくて仕方がない。授業中に本を読んでも怒られない!最高じゃない? 「⋯⋯何これ!めっちゃ面白い!!」  冒頭から引き込まれる。あっという間に15分が過ぎて、ぼくの頭はその後も新刊のことでいっぱいだった。マッキーに本を返して、放課後になるのをじりじりしながら待った。 「じやー、また明日ねー」  今日は部活もない。教室を急いで飛び出すと、下駄箱に向かう廊下で呼び止められた。 「由千」 「アキ、どうしたの?」 「ちょっと待ってろ。今日の部活、体育館使えなくなって中止になったから」  彬光はバレー部だ。ジャージから学生服に着替えてくるから、ぼくに下駄箱の前で待っていろと言う。 「ええー。ぼく、今日は本屋に行くんだよー!」 彬光がじろりと睨んでくる。長身の上に凛々しいタイプのイケメンに睨まれるのこわー!圧がすごい。わかったよぉ⋯⋯。  別にいつも一緒に帰らなくてもいいじゃん!そう思うのに、彬光は部活の無い日はいつも一緒に帰ろうと言ってくる。口答えするのも怖いので、何となくいつも一緒に帰っているのだ。 仕方なく、昇降口を出て日陰になっている壁際に背をつけた。ここで本を読みながら待とう。  昇降口の壁と向かいの校舎の間のスペースには、木が1本植えられているだけだ。 誰もいない。鞄から、朝読書で読もうと思っていた本を取り出す。 昼休みに図書室で美しい装丁の本を見つけた。 獅子と薔薇の紋章に剣が描かれている。ぱらぱらと数ページ流し読みをすると、どうやら王子様をめぐっての悲恋もののようだ。朝の楽しみにしようと、すぐに貸し出し手続きを済ませた。  
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