562人が本棚に入れています
本棚に追加
ぱらりと本をめくる。
〈⋯⋯けて〉
〈⋯⋯たす⋯⋯けて〉
「声?」
どこからか声がする。
辺りを見回しても、早めの下校をする生徒がぽつぽついるだけだ。
ふっと、目の前に白い光が広がり、おぼろげに人の姿が浮かび上がった。
なにこれ?
ぽかんと自分の口が開いたのが分かった。
まるで映画の3Dみたいだ。本の中から、人の半身が抜け出している。
目の前に浮かび上がった影が、ぼくに向かって手を伸ばす。
そして、笑った。にやりと。
「ぎゃあぁあ!!」
こわい──!お化けや幽霊は大っ嫌いだ。
そして、3Dと違うのは、感覚があったことだ。
叫んだ瞬間に、白い影から肩を掴まれた。がっしりと。
馬鹿力に掴まれて、頭からずぶずぶと引きずり込まれていく。
目の前の、光の中へ。
ひいぃ!
「由千っ」
幼馴染みの声が聞こえた。
瞬間、ぼくの右足を大きな手がものすごい力で掴んだ。
「痛い!」
「⋯⋯っ!なんだ、これ!!」
「アキ!?」
右足を掴んでいるのはアキなのか?
確かめることも出来ないまま、白い光を放つ本の中に吸い込まれていった。
ぱちりと目を開けたら、高い天井が見えた。
「⋯⋯ここ。どこ?」
大きくてふかふかのベッドに横になっていた。
どう考えても、ここは学校の保健室ではない。
むくりと起き上がって、自分の体を見る。いつもの学生服のままだった。
辺りを見回すと、自宅の6畳の部屋を二つ合わせた位の広さの部屋にいた。ベッドと椅子と机がある。物は少ないけれど、どれも凝った細工が入っていた。
パタン。
扉が開く音がする。
「お目覚めになりましたか?」
絵に描いたようなイケメンが部屋に入ってきた。
深い藍色の瞳が、微笑むとあたたかな光を帯びる。
サラサラ流れる銀色の髪は、後ろで一つに結ばれていた。薄い甲冑。背には短めのマント。腰に帯剣が出来るのは、騎士と相場が決まっているだろう。
⋯⋯映画の撮影か何かだろうか?
「ええっと、ここはどこですか?そして、あなたは?」
「ここはランデバルト王国。私は近衛隊長のユアンと申します」
「らんでばると」
聞いたことないけど、とりあえず言葉が通じる。イケメンは声までいい。そう思って一息ついた時。
バン!
もう一度、扉が開いた。
最初のコメントを投稿しよう!