4.恋心

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 月曜の昼休み。 「お前が、ゆっちゃんの幼馴染み?」  アキを見るなり、開口一番、羽間先輩は言った。  何だか、いつもと口調が違うし、圧がすごい。  笑顔の消えた先輩は、普段とは別人のようだ。  ぺこりと頭を下げたアキは、ぼくの前の席に座る。  ぼくの隣に座っていた先輩は、無表情にアキを見た。  クラスメイトたちが遠巻きにぼくらを眺めている。  固唾を飲んで様子をうかがう空気に、めまいがしそう。  先輩が声を潜めて言った。 「好きな子に寂しい思いをさせるような奴はダメなんだよ」  アキの肩がピクリと跳ねる。  先輩の目が細くなって、アキを睨みつけている。  ⋯⋯胃が痛い。  昨日の公園で、アキと久々にゆっくり話をした。  羽間先輩にいつも作品を読んでもらっていると話した途端、アキの顔色が変わった。 「読んでもらってるだけだよ」と、言い訳がましく言ったのがいけなかったのか。 「文芸部でもないのに?毎日、由千の話を読みに来るって?」  明らかにおかしいだろ、とアキが言う。  結局。アキは早速、昼休みにぼくのクラスにやってきたのだ。 「お前がゆっちゃんを泣かすなら、俺がもらうからな」  先輩は、アキに向かってきっぱりと言う。  アキは歯ぎしりしながらも、何も言い返さなかった。 「先輩、すみません」  教室に帰ろうとする先輩を廊下で追いかける。  借りていたハンカチを差し出しながら、御礼を言った。 「それから、あの⋯⋯」  むぎゅ。  先輩が右手の指先で、ぼくの口を摘まんだ。 「それ以上言わなくていいから」  羽間先輩の口が少しだけ尖ってる。 「ゆっちゃん見てたらわかるから、もういいんだよ」  先輩が、ぼくの頭にぽんぽんと軽く触れた。  ぼくは、深々と頭を下げた。 「ずっと、ぼくの話を読んでくださって、ありがとうございます」 「俺、ゆっちゃんの話が好きだからさ。また読みに来てもいい?」 「読んでもらえるんですか?」 「⋯⋯邪魔なのも来そうだけどなあ。でも」  先輩は、ぼくの後ろをちらりと見た。  視線を追うと、こちらを睨んでいるアキが目に入った。 「恋人になれなくてもさ。俺は、ゆっちゃんの書く話の最初の読者になりたいんだよ」  そう言って、先輩は笑った。  先輩の笑顔はいつも通りに優しくて、ぼくは泣きそうになってしまった。
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