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月曜の昼休み。
「お前が、ゆっちゃんの幼馴染み?」
アキを見るなり、開口一番、羽間先輩は言った。
何だか、いつもと口調が違うし、圧がすごい。
笑顔の消えた先輩は、普段とは別人のようだ。
ぺこりと頭を下げたアキは、ぼくの前の席に座る。
ぼくの隣に座っていた先輩は、無表情にアキを見た。
クラスメイトたちが遠巻きにぼくらを眺めている。
固唾を飲んで様子をうかがう空気に、めまいがしそう。
先輩が声を潜めて言った。
「好きな子に寂しい思いをさせるような奴はダメなんだよ」
アキの肩がピクリと跳ねる。
先輩の目が細くなって、アキを睨みつけている。
⋯⋯胃が痛い。
昨日の公園で、アキと久々にゆっくり話をした。
羽間先輩にいつも作品を読んでもらっていると話した途端、アキの顔色が変わった。
「読んでもらってるだけだよ」と、言い訳がましく言ったのがいけなかったのか。
「文芸部でもないのに?毎日、由千の話を読みに来るって?」
明らかにおかしいだろ、とアキが言う。
結局。アキは早速、昼休みにぼくのクラスにやってきたのだ。
「お前がゆっちゃんを泣かすなら、俺がもらうからな」
先輩は、アキに向かってきっぱりと言う。
アキは歯ぎしりしながらも、何も言い返さなかった。
「先輩、すみません」
教室に帰ろうとする先輩を廊下で追いかける。
借りていたハンカチを差し出しながら、御礼を言った。
「それから、あの⋯⋯」
むぎゅ。
先輩が右手の指先で、ぼくの口を摘まんだ。
「それ以上言わなくていいから」
羽間先輩の口が少しだけ尖ってる。
「ゆっちゃん見てたらわかるから、もういいんだよ」
先輩が、ぼくの頭にぽんぽんと軽く触れた。
ぼくは、深々と頭を下げた。
「ずっと、ぼくの話を読んでくださって、ありがとうございます」
「俺、ゆっちゃんの話が好きだからさ。また読みに来てもいい?」
「読んでもらえるんですか?」
「⋯⋯邪魔なのも来そうだけどなあ。でも」
先輩は、ぼくの後ろをちらりと見た。
視線を追うと、こちらを睨んでいるアキが目に入った。
「恋人になれなくてもさ。俺は、ゆっちゃんの書く話の最初の読者になりたいんだよ」
そう言って、先輩は笑った。
先輩の笑顔はいつも通りに優しくて、ぼくは泣きそうになってしまった。
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