5.湖の休日 ※

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 たしか、このダム湖の話を聞いた時は夏だったと思う。 「1日に2回ある観光放流シーンが大迫力!地下に繋がってるケーブルカーなんか、短いけど、すごい急角度!!」  そう教えてくれたのはマッキーだったはずだ。  しかし、そこは黙っていよう。  湖上を吹く風にさらされているアキは、無言だった。  マッキーの名を出した途端に、アキの体からブリザードが吹き出しそうな気がする。 「ご、ごめんね。もっと、デートらしい場所の方が良かったよね」  アキは、たぶん色々考えてくれていたんだと思う。 「どこか行きたいとこある?」と聞かれて、何も考えずに思いつきで答えたぼくがいけない。  すっかりしょんぼりして、アキの服の袖を引いた。 「誰も、いないな」 「うん」  バス停の周りにはお店があったから、少なくても人がいた。  そこから離れてどんどん歩いて行くと、周りにはもう誰もいない。  ぐるりと振り返っても、湖の上を羽ばたく鳥の姿が見えるくらいだ。  ダムの成り立ちを考えれば当然なんだけど、山と自然ばかりが目につく。 「じゃあ、俺がこうしても、お前は怒らないよな」  アキはそう言って、いきなり、がばりとぼくを抱きしめた。  ぎゃあああ!!!と叫びそうになったところに、アキの蕩けそうな笑顔が見えた。  ⋯⋯そんな顔されたら、何も言えないじゃん。  頬が急に熱くなるのがわかる。  アキがぼくを抱きしめると、ぼくはアキの腕の中にすっぽりと入ってしまう。 「はー、久しぶり。このサイズ感。腕の中におさまる感じが好きなんだよな」  アキがぼくのおでこに一つキスをして、肩口に顔を擦り付けてくる。 「充電、充電」  頬だけじゃなくて、冷えていた体までどんどん熱くなった。  真昼間に外でそんなことをされたことがないから、誰もいなくても動揺してしまう。
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