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「あ、アキさ。ちょっと待って」
「ん。なんで?」
そう言いながら、アキは顔中にキスしてくる。
おでこ、まぶた、頬。そして、唇。
アキの少し厚めの唇からぼくの口の中に、熱い舌が忍び込む。
舌先から根本、歯の裏側と舐められた。
いつの間にか、唾液ごと舌を吸われて、必死で息をする。
ぼうっとして、アキの腕の中で力が入らなくなる。
「やば⋯⋯」
アキは唇を離して、小さく呟いた。
「由千が、かわいすぎて困る」
「ん。⋯⋯ぼくも、ぼくもね」
とろんとした頭のままで話し出す。
アキがかっこよくて困るんだ⋯⋯。そう呟いたら、アキはこつん、とおでこをぶつけてきた。
「お前、ほんと、凶悪なとこあるよな」
指を絡めてキスをして、ぼくはすっかり困ってしまった。
誰も見ていないと言う解放感が後押しをする。もう少しアキに触れたくなる気持ちを。
「寒いからな」
「うん、寒いから」
言わなくてもいいのにそんな言い訳をして、二人でぴったりとくっついて歩く。
ダムの周辺を歩き回り、ケーブルカーにも乗った。
コンクリートで固められたダムの上から下を見れば、目もくらむような高さに足がすくむ。
アキの腕にしがみついたら、くすりと笑われた。
いつもはしないけれど、ぎゅっと手を繋いで歩いた。
アキの手は温かくて、大きくて、ぼくたちは目が合う度に何回もキスをする。
ダムの観光放流は、すごい迫力だった。
午前と午後に1回ずつしかないから、流石にその時間は人が集まってくる。
轟音と共に、6分間に及び滝のように落ちてくる水の柱を、夢中で眺めた。
水煙は川底で舞い上がり、小さな虹を作る。
他の人達と一緒に歓声を上げた。
もっと頑張って歩けば、大吊り橋もあるし、遊覧船にも乗れる。
でも、ぼくたちは湖を見ながらカフェで食事をして時間を過ごした。
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