5.湖の休日 ※

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「ぼくたち、どこにいても変わんないよね。放流はすごかったけど、一緒にご飯食べて話してるだけじゃない?」 「いや、そんなことないって」  アキが首を振った。 「由千、知ってるやつがいるとこでベタベタされるの、嫌がるだろ」  黙り込んでいると、アキが笑う。 「ここなら、いくらベタベタしても嫌がられない」  確かに、そうだった。  アキは気にしないみたいだけど、ぼくは結構気にしてる。  この湖には来てみたかったけど、本当は海でもどこでもよかったんだ。  ⋯⋯アキと一緒なら。  いつもの場所から離れて二人で話す。手を繋いで歩く。  そんなことが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。  カフェの前の遊歩道には、湖が見えるように等間隔でベンチが設置されている。  アキと並んでそこに座った。  ベンチに置いていたぼくの手にアキが触れる。 「冷たい」  そう言って、ぼくの手を掴んで自分の口許に持っていく。  はあ、と熱い息を吹きかけられて、体が震えた。 「俺、今日は由千とここに来られて良かったな」 上着のポケットに、ぼくの手を握ったまま入れながら、アキが言った。 「うん⋯⋯ぼくも」  ポケットの中は、二人分の熱でほかほかと温かくなった。  二人で自宅まで帰り着いた時は、もう夜だった。  ぼくの家は、明かりがついていなくて真っ暗だ。 「あれ?」  驚いてLINEを見る。  母から、今日は父と二人で祖母の家に泊まる、と連絡があった。  そういえば、田舎までおばあちゃんの様子を見に行くって言ってたっけ。 「今夜、父さんと母さんは帰ってこないって言ってる。おばあちゃんちに泊まるって」  LINEを見ながら言うと、アキは黙り込んだ。  そして、いきなりスマホを取り出して電話をかける。 「あ、陽菜(ひな)?俺。今日、由千の家に泊まるから母さんたちに言っといて。うん、おばさんたちいないし、由千一人じゃ寂しいだろ」  その後、妹の陽菜ちゃんに何か言われたらしくて、速攻で電話を切っていた。  目を丸くしているうちに。  ぼくは今夜、アキをうちに泊めることになっていた。
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