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①
都内の繁華街にあるバー。
漆塗り一枚板のカウンター席と、3,4人掛けのテーブル席が3つの。カウンターでは、人生経験豊富そうな美人ママと、穏やかな眼差しをした初老のバーテンダーが静かに手元を動かしている。
そんな、どこにでもあるような、小さな店。
日中は喫茶店として営業し、夕方からは小ぎれいな格好をした女性スタッフが飲み物の世話と話し相手をしてくれる。
そんな、どこにでもあるような、飲食店。
今夜は、店の女性スタッフのリナが対面に座っている。
髪を夜会巻きにしたリナは、ピンク色に古風な花柄の着物を纏い、艶ややな赤い唇に意味深な微笑を湛えながらこちらをじっと見つめている。
そんな、一見、どこにでもあるような、夜の店。
ビロード調の深緑のソファー席に腰掛けたリナは、軽く体をくねらせ顔を斜め45度に傾けながら、微動だにせず微笑み続けている。その口元は時折何かをこらえるように引きつった。その様子には、振袖を着て前撮りをする新成人のような初々しさと幼さがあった。
カシャ、カシャ。
カメラのシャッター音が店内に響き渡っている。
そして、カメラがテーブルの上に置かれた瞬間、リナは帯締めの辺りをおさえながらドカッと勢いよく背もたれに寄り掛かった。
和柄の花模様に包まれた華奢な身体が、毬のように弾んだ。
リナは帯締めに添えた手を帯の中に突っ込み、苦しそうにため息をついてから、堰を切ったように話し出した。
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もう、ママったら、「もう十分、もう大丈夫」言ってるのに締め付けるんだから。苦しくヤバイ!
今日のためにママからもらった着物でキメてみたけど、私はやっぱり着物ってキャラじゃないみたい。
え?今日は銀座のホステスさんみたいにキレイ??
あのねー、何度も言うけど、ここ、銀座ですから。
え?銀座にあるって言う割にどの駅からも遠くて場所も分かりにくいって?
だから選りすぐりの素敵なお客さんが集まってくるんだよ?
どこで仕入れた分からない、不思議なお話を聞いたり聞かせてくれる、素敵な変わり者のお客さんがね。
そんなお客様のおかげで、私みたいな「えっ、何か話す?じゃあ、おじいちゃんから聞いた言い伝えなんですけど…」って初出勤で言い出して呆れられた女子が、たーくさんご指名いただくようになったんですから。
何かお題を出すと、それにちなんだお話をしてくれる、お話上手な女の子がいるってね。
それに、私のこと、「銀座語り部ホステス」なんて言い出したのは、そちらからじゃない?ちょっと取材させてよってさ。
あと、さっきの写真、綺麗に撮ってくれて凄く嬉しいんだけど、お願いだから鼻から下は絶対載せないでね!うちの会社、まだまだ副業禁止で、バレたらヤバいからさ…。
さてさて、そろそろ本題に入らなきゃね。
今回のテーマは、「足跡」だったよね?
それなら、こんな話はどうかな?
ちょっと前にお客さんから聞いた話なんだけどね…。
あ、ちゃんと話してくれたご本人に公開許可もとってるから、大丈夫。
その方は海沿いの町に住むお医者さんで、たまに学会で上京される古い常連さんなの。お店では、ヒデちゃんって呼ばれてる。
じゃ、ヒデちゃんから聞いた不思議なお話の、始まり始まりー。
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