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あるところに、世界中を旅するふわふわのわたげ姫がいます。
わたげ姫は、わたげでできた体で風を捕まえて、ふわふわ飛ぶのが大好きです。
極寒の地や灼熱の地などを渡り歩くそんなお姫様には、重要な使命がありました。
それは、種を運んで命をその土地に芽吹かせる事です。
わたげ姫の体には、新しい命を生み出す種がくっついているので、それを土の上に運ばなければなりません。
だから、長々と続く命の歴史が途切れないように、種がきちんと根付く土地を探さなければなりませんでした。
わたげ姫は、そんな重要な使命を誇りに思っています。
意気込んであちこちの土地を渡り歩きました。
けれど、旅は楽なものではありません。
冷たい風が、灼熱に日光がわたげ姫におそいかかります。
わたげ姫はそのたびに、間欠泉から吹き上げるお湯でからだを温めたり、木々が連なるジャングルで涼をとったりします。
時には狼に食べられそうになったり、大海原に墜落しそうになったりしましたが、それらの困難も知恵と勇気で乗り越えてきました。
そんな風に幾日も旅を続けたわたげ姫は、苦労の末、とうとう目的地へたどり着きました。
種に適した土地を見つけたわたげ姫は、新たな命が芽吹くように祈りをささげます。
冷たく暗い土の中に置いた種が、陽の光を見る時はいつになるのか。
それは誰にも分かりません。
ひょっとしたら芽吹かない可能性もあります。
しかし、使命を果たし終えたわたげ姫は満足して力尽きました。
長い旅路でボロボロになったお姫様は、元の場所に帰る力が残されていなかったのです。
永遠の眠りについたわたげ姫。
その体は、種が芽吹いた時に成長の糧となるのでしょう。
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