10.

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10.

「おい、樹。雪かきどご手伝ってけれ」 外からじっちゃが呼ぶ声が聞こえた。 ビニールハウス内の畑を横切り、戸の方へと向かう。 途中、スマートフォンが鳴った。 彩奈さんからのLINEだった。 『コロナが落ち着いたら、樹くんの畑を見に行きたいな』 頬が熱を帯びたのは、きっと、寒さのせいだ。 スマートフォンをポケットにしまい、再び歩き出した。菊、カスミ草、ハボタン、リンドウ――それぞれの畝を横切るたびに、しっとりと湿った空気が舞う。健康な土の瑞々しい匂いが、僕を包んだ。 畝と畝の間に、新しい足跡ができる。 足跡を上書きできるのは、僕だけだ。 (了)
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