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2020年、春。 本来ならにぎわうはずの商店街に、人がいない。 ちらほらと見かける通行人は誰もがマスクをしている。 「どうなってんだべ――」 信じたくなかった。政府は「緊急事態宣言」という物々しい名前の計画を立てているそうだ。僕の仕事や花がどうなるのか、不安だった。 昼食を終え、テレビを消し、立ち上がる。 同時に、スマートフォンの着信メロディが鳴り出した。 「もしもし、なした?」 『突然ごめんね。お願いがあって――助けて欲しいの』 相手は幼馴染みの香奈だった。 昨年結婚し、退職して関東に移り住んだと聞いている。 「んだの? いいよ、話聞くよ」 『ありがとう。実は、姉ちゃんがうつ病になっちゃって』 香奈は溜めていた感情を一気に吐き出すように、話し出した。 『何も食べられない、片付けられない、ぐっすり寝れない状態で』 『定期的に様子を見に行きたいの。でもコロナが心配だから、来ないでって言われちゃって』 『何度も行ってあげられない代わりに、何か欲しいものがあるか聞いたの。そしたらね、』 『樹の花が欲しいって』 え?嘘だろう? 僕は香奈にからかわれているんだ、きっと。 コロナ禍の僕を哀れんで言ってるに違いない――。 でも、香奈の声には芯があった。
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