28人が本棚に入れています
本棚に追加
『都内にお花屋さんなんてたくさんあるよ。綺麗なお花も、可愛いお花も、何でもあるよ。だけど、樹のじゃなきゃだめなの。姉ちゃんにとっては、地元の、樹が作ったお花だってことに、意味があるの』
これは新たなビジネスチャンスなのか?
まさか新型コロナウイルスが既に身近な人に影響を与えているとは、考えてもいなかった。
いや、組合に所属している以上、組合以外に販売してはいけない決まりだ。それなら――?
「――分がった。できる範囲で、協力するよ」
ひとまず承諾したはいいものの。
うつ病の人に、どんな花が喜ばれるのかなんて、僕も香奈も全く分からない。
花を届ける日時を尋ねるふりをして、土づくりの合間に、何度か姉の彩奈さんとコミュニケーションを図った。LINEをして、電話をして。
だけど、意外と普通の様子で拍子抜けだった。
『もしもし、樹くん?香奈から聞いたと思うんだけど、明るい色のお花が欲しいなって思っててね――』
え、うつ病って、気分が暗くなって死にたくなる精神状態なんじゃないのか?
これがお味噌汁一杯で吐くほど心身が弱っている人の声か?
――それとも、これは作り笑顔か?
僕には何の知識もない、人脈もない。
こんな僕が、人を花で元気にするなんて、できるのか?
最初のコメントを投稿しよう!