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「――ん。んだな」 僕はそれ以上、何も言えなかった。 「なぁ、『雨ニモ負ケズ 風ニモ負ケズ』って、知ってるべ?」 じっちゃは突然話題を変えた。 「宮沢賢治だべ。小学校で習ったっけ」 「だべな。この詩だば、いろんな教訓が詰まってるもの。おめ、最後まで暗記できたか?」 「んなわけねぇべ。ばかけなんだや」 じっちゃは詩を滑らかに暗唱してくれた。リズミカルな言葉が心地よく、脳裏にすっと刻まれる。 ヒデリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ 「賢治はただの作家でねぇど。教師、科学者、音楽家――そして、農家だった」 じっちゃは噛み締めるように、何度も頷いた。 「要はな、賢治の姿勢は『労を惜しまず人助けして、見返りや評価は求めない』と解釈できるんだ」 「え、デクノボーになりたいんじゃないの」 ばかけ、と呆れ声が降ってきた。 「おめはもっと教養を積め。『デクノボー』ってのはな、気が利かない奴とか、流されて人のいいなりになってる奴を言うんだ」 ――デクノボーと笑われてもいいから、デクノボーにはなるな。人のために、尽くせ。 じっちゃの哲学は、僕には難しすぎた。 それでももう一度、頭の中で繰り返す。 サウイフモノニ ワタシハナリタイ――。 宮沢賢治もじっちゃも、土と向き合い、人のために生きてきたんだ。 ※「ヒデリ」の実際の表記は「ヒドリ」
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