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秋風が吹く頃には、水やりの手際は随分と良くなった。 クラスでも「樹=お花係」が定着した。 その頃だった。 早朝、僕は花壇がぐちゃぐちゃに踏み荒らされているのを見つけた。 アスファルトの地面に、土が激しく飛び散っている。 そこから校舎まで続いていたのは、大小複数の、足跡。 呆然と立ち尽くした。不思議と涙は出なかった。 ふいに、犯人を殴り倒したい衝動に駆られた。 茎が折れる固い音。 花びらがちぎれる鈍い感触。 上履きの裏で擦れた土の匂い――。 犯人は何も感じなかったのだろうか。何も迷わなかったのだろうか。 その日の昼休み、上級生3人が担任の先生に促されるまま謝ってきた。でも、繕った弁解の言葉など、耳に入らなかった。 命が戻らない痛み。守れなかった悔しさ。 苦い水が、どっと胸に流れ込んだ。 奴等はその後も何度か悪さを仕掛けてきた。突き飛ばされ、泥まみれの姿を笑われても、僕は花を守ろうとした。 今でもふと思う。 一体、何が自分をそこまでさせたんだろう。 集団行動に反発し、一人で遊びながら、孤独を感じていた。子どもながら、自分の存在を誰かに認めて欲しいと願っていた。 花は、その感情全てを包み込んだ。 花は、あるがままの自分を受け入れてくれていた。
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