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5.
足跡を観察し始めてから3カ月が過ぎた。
水はけのコントロールはまだ試行錯誤の段階だったけれど、手応えはあった。
「じっちゃ。今日な、面白いこと思い付いたんだ」
「何だべ」
昼食時、居間で畑の変化や発見をじっちゃに伝えることが日課になっていた。じっちゃをただの家族と見るのか、数々の受賞歴を誇るベテラン米農家と見るのか――考え方一つで、受け取る言葉の重みも変わってきた。
「あのな、一つの畑で、複数の花を育ててみようと思うんだ」
「ほう」
じっちゃは僕の顔をまじまじと見た。
「例えば、トルコギキョウを1万本育てても、全部は売れねぇべ? だったら出荷を5千本に減らして、余った畑でバラ5千本を育てればいい。そうせば、バラの顧客ニーズも取り込めるべ」
気が付くと、興奮のあまり顔が火照っていた。
「あと、先行投資して、農薬散布機を搭載したトラクターも買おうと思ってる。800万円もするけど、作業の時短に繋がるし、ちゃんと出荷の計画書が認められれば、国の補助金を利用でぎるんだど」
「足跡見て、土の管理次第でいくらでもビジネスチャンスが広がるって、学んだ。ひと続きの畝でいくつもの湿度を保つのは難しいけど――今なら、それができるって自信がある」
じっちゃは腕組みをして黙っていたが、やがて、「やっでみれ」と頷いてくれた。
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