第一夜

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「しかし、(りん)が遅刻とは珍しいねぇ。雨が降らなきゃいいけど」  そう言って冴え渡る青空を見上げたあと、いつもの柔和な笑みを浮かべて彼が私の右手を取った。 「映画。確か十時半からだろ? 走ればまだ間に合う」  グイ、と手を引かれて走り出す。彼の背中を見つめながらドキドキと鼓動が早まった。  彼、真柴(ましば)涼介(りょうすけ)くんは高校生時代から付き合っている私の彼氏だ。  サッカー部で目立つ存在だった彼を、私はいつもひっそりと見つめていた。ある時は教室の窓から。ある時は校庭の片隅から。そしてある時は廊下の窓から。  彼は日が暮れるまでサッカーボールを蹴り、練習には人一倍真面目だった。  どちらかと言えば人気者の彼と地味な私。  告白をしたのは私から、だったかな?  あの頃は不慮の事故で頭に衝撃を受けたから、ところどころ記憶が曖昧だ。確か男子が投げた野球の硬球が頭に当たった気がする。 「けっこう面白かったね?」  二時間近くある上映を終えて、私たちは軽食がとれるカフェへと立ち寄った。  私は人気のあるチキンベーグルを、涼ちゃんはキーマカレーを頼んだ。レモンティとアイスコーヒーにそれぞれがストローを挿し、食事にありつく。
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