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退院の日。今までともに支え合った仲間、スタッフに見送られ、俺はエレベーターに乗った。
溢れそうになる涙をぐっと堪え、受付で支払いを済ませて正面玄関を出た。両親は遠方におり、独身で彼女もいない俺は、1人で病院の自動ドアをくぐった。
空は青く、眩い日差しが町全体を照らしている。最高の門出だ。
山、雲、太陽、全てをありがたく感じた。そして、この左足も。
あらゆるものに支えられて、俺たちは生かされているのだ。当たり前に持っていたものは、実は当たり前ではなかった。そして生きるために必要な力は、遠い昔から既に手にしていたのだ。
社会の荒波に揉まれる内に、そんな大切なことを忘れていた。病院の正面玄関前で、俺は俺を恥じた。
俺は1つ息を吐き、この2カ月で得た心構えを胸に刻んで、タクシーの後部座席に座った。
まずやるべきは、うん、禁煙だ。
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